建設業許可の申請を控えている事業者の皆様にとって、「社会保険への加入」は許可の要件のひとつで、「労務費の適切な計上」は申請に使う決算書を正しく作るための土台です。長野県を含む全国の建設会社・工務店では、これらの要件を正確に理解できないまま申請に臨み、後のトラブルを招くケースが少なくありません。本記事では、建設業許可取得前に必ず押さえておくべき社会保険加入義務と労務費計上の実務ノウハウ、さらには就業規則作成と安全措置の法令遵守について、具体的で実践的な情報をお伝えします。これから許可申請を予定されている方は、ぜひ最後までご覧ください。
建設業許可の申請要件としての社会保険加入義務
社会保険加入が許可申請の必須条件である理由
建設業許可の申請要件は、建設業法で厳密に定められており、単に営業実績があるだけでは許可を取得できません。2026年現在、国土交通省が最も重視しているのが、健康保険・厚生年金保険・雇用保険の三つの社会保険加入状況です。
これらの保険加入義務は、2019年の建設業法改正によって強化されました。改正前は加入状況が曖昧だった事業者も多かったのですが、現在では、適用事業所であれば健康保険・厚生年金保険・雇用保険に加入していることが許可の要件です(常時5人未満の個人事業所は、健康保険・厚生年金の適用事業所ではありません)。
実際に、全国の都道府県建設業課では申請時に以下の書類提出を求めています。
- 健康保険・厚生年金保険加入状況の証明書(保険料納付実績があるもの)
- 雇用保険適用事業所設置届の控え
- 健康保険等の加入状況(様式第7号の3)と直近の保険料の領収証書などの写し
長野県での申請でも、これらの書類がない場合は許可審査が進まないため、申請前に必ず加入手続きを完了させておくことが重要です。同じ地域・同じ業種で許可を持つ会社がどれくらいあるかは、都道府県別・業種別の建設会社の一覧から確かめられます(載っている情報は、会社ページの「データの更新日」の時点のものです)。
個人事業主と法人での加入要件の違い
社会保険加入義務は、事業形態によって若干異なります。
法人(株式会社・有限会社)の場合
法人は従業員数に関わらず、社会保険への加入が法律で強制されています。つまり、役員報酬を受け取る経営者本人も含め、全員が被保険者対象です。建設業許可申請では、法人設立後に社会保険加入手続きを完了させた証拠書類が必須となります。
個人事業主の場合
個人事業主は状況がより複雑です。従業員を雇用していない場合(一人親方)は、健康保険・厚生年金の適用事業所ではないため、本人は国民健康保険と国民年金に入ります。
従業員を雇う個人事業主は雇用保険に加入させ、常時5人以上なら健康保険・厚生年金保険にも加入させる必要があります。
加入できていないと申請が却下される具体例
たとえば(想定の例)、従業員を雇いながら雇用保険だけに入り、健康保険・厚生年金保険の加入を後回しにしていると、申請の前に加入の手続きをやり直すことになります。手続きが終わるまで申請を進められず、営業の予定にも響きます。
こうしたトラブルを避けるため、許可申請の6か月前から社会保険加入状況を整備することをお勧めします。
労務費の適切な計上方法と財務要件

労務費を正しく分けて記帳する理由
労務費と材料費の比率は、建設業許可の要件ではありません。許可の要件は、経営業務の管理体制・営業所技術者・誠実性・財産的基礎・欠格要件に当たらないこと・社会保険への加入です。それでも申請には決算書(財務諸表)を出すため、労務費・材料費・外注費を正しく分けて記帳しておくことが大切です。
労務費と材料費の割合は、工事の種類や外注の使い方で大きく変わります。決まった比率に合わせる必要はなく、実態どおりに計上することが基本です。
例えば、外注に頼る割合が大きい会社は労務費が小さくなりますが、それだけで許可が取れないわけではありません。ただし、勘定科目の分け方があいまいだと、決算書を建設業の様式に直すときに手間がかかります。
労務費の適切な計上ルール
労務費として計上できるのは、以下の項目です。
- 直接雇用している従業員の給与・賃金(健康保険・厚生年金保険・雇用保険の対象者)
- 給与控除前の総額(手取り額ではなく、保険料・税金控除前の金額)
- 施工実績に応じた実績給
- 現場作業員の日給・時給(源泉徴収票で証明できるもの)
計上できない項目(よくある誤り)
- 一人親方への外注費(労務費ではなく外注費として扱う)
- 材料を納入した業者への支払い(材料費として分類)
- 機械・重機のレンタル費(機械費として分類)
- 下請け業者への丸投げ金(外注費として分類)
実務では、帳簿に「労務費」「材料費」「外注費」「機械費」と勘定科目を明確に分けて記録することが、後々のトラブル防止につながります。
計上方法を見直すときの進め方
想定の例として、現場で働いた従業員の給与をすべて一般管理費に入れていた会社なら、工事に関わった分を工事原価に計上し直すと、工事ごとの原価が実態に近づきます。見直すときは、工事写真・給与明細など裏付けになる記録をそろえておきましょう。
ここで大切なのは、記帳の段階で労務費と外注費の区分を正確に行うことです。
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就業規則を整えておく理由
就業規則は建設業許可の要件ではなく、許可の申請で提出を求められる書類でもありません。ただし、常時10人以上の従業員がいる事業場では、労働基準法第89条により就業規則を作り、労働基準監督署へ届け出る義務があります。許可の準備とあわせて整えておくと、働く人を守る土台になります。
就業規則が求められる理由は、以下の三点です。
- 労働条件の明確化:給与、勤務時間、休日、退職条件などが明記されているか
- 安全管理体制の確認:建設業特有の危険作業に対する安全規定があるか
- コンプライアンス確保:会社が法令を遵守する姿勢があるか
元請から安全や労務の体制を確かめられたときにも、就業規則が整っていれば説明しやすくなります。
建設業で就業規則に入れておきたい項目
建設業では、一般的な項目に加えて、次のような内容を入れておくと現場の実態に合った規則になります。
安全管理に関する項目
- 安全衛生教育の実施方法と頻度
- 危険作業時の安全措置(足場、転落防止、電動工具の取扱いなど)
- 安全用具(ヘルメット、墜落制止用器具(安全帯)、保護具)の着用義務
- 労働災害発生時の報告体制
労働時間に関する項目
- 休日日数(毎週2日以上の確保が明記されているか)
- 時間外労働の取扱い
- 有給休暇の付与方法
給与・退職に関する項目
- 給与計算方法(日給、時給、月給、どの方式か)
- 社会保険料の控除方法
- 退職金制度の有無
実践的な就業規則作成のステップ
許可申請に向けて就業規則を作成する場合、以下のステップで進めることをお勧めします。
ステップ1:現状の労働条件を整理する
従業員の給与、勤務時間、休日日数、各種手当を一覧化します。この時点で「実は給与台帳に記録されていない」という事項があれば、後のトラブルの元になるため、必ず文書化しておきます。
ステップ2:建設業特有の安全規定を追加する
業種ごと(解体工事業の許可、とび・土工工事業、鳶職など)に異なる安全リスクがあります。自社の施工実績に応じた安全措置項目を就業規則に明記します。
ステップ3:法令遵守項目をチェック
労働基準法、建設業法、労働安全衛生法の最新改正内容を反映させます。特に、2023年4月から中小企業にも適用された「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率(50%以上)」は、賃金の定めとして就業規則に書いておく必要があります。
ステップ4:従業員との協議と周知
作成した就業規則を従業員に周知し、意見を聴取したうえで正式採用します。常時10人以上の労働者を使う事業場では、就業規則を労働基準監督署に届け出る際に、労働者の過半数を代表する者などの意見書を添えます(労働基準法第89条・第90条)。協議の過程を文書で残しておくと、後で説明を求められたときにも役立ちます。
安全措置の法令遵守とチェックリスト
建設業許可の申請に就業規則を出す決まりはありません。ただし、労働安全衛生法などで決められた安全措置は、許可の有無にかかわらず、現場で実際に行われていることが求められます。特に解体工事業、とび・土工工事業など、墜落や倒壊の危険が大きい業種では、日ごろの点検と記録が大切です。
以下は、自社の安全措置を見直すときのチェックリストです。
| 安全措置項目 | 確認内容 | ☑ |
|---|---|---|
| 安全衛生教育 | 新入職員への安全教育を実施・記録しているか | ☐ |
| 安全用具 | 全従業員にヘルメット、墜落制止用器具(旧:安全帯)を支給・着用させているか | ☐ |
| 足場・仮設工 | 足場の組立検査、定期点検を実施しているか | ☐ |
| 機械安全 | 電動工具の点検、危険機械の操作限定をしているか | ☐ |
| 労災保険 | 全従業員が労災保険の保険関係に入っているか | ☐ |
| 安全衛生責任者 | 元請が統括安全衛生責任者を置く現場(常時50人以上など)で、下請として安全衛生責任者を選んでいるか | ☐ |
| 現場標識 | 危険箇所の標識、立入禁止区域の表示をしているか | ☐ |
| 報告体制 | 事故の社内報告の手順と、労働基準監督署へ出す労働者死傷病報告の体制ができているか | ☐ |
これらの項目を定期的に確認し、不足している部分があれば改善しておくことが、事故とトラブルの防止につながります。
よくある質問

Q1. 建設業許可取得には社会保険加入が必須ですか?
はい、建設業許可取得の要件です。要件は、事業所が(適用事業所として)健康保険・厚生年金保険・雇用保険に加入していることです。健康保険、厚生年金保険、雇用保険の加入状況を証明する書類の提出が求められます。許可申請時に加入状況を確認されるため、事前準備が重要です。
Q2. 社会保険に加入していない場合は許可を取得できませんか?
完全には取得できません。ただし加入手続き中であれば、加入予定を示す書類で対応できる場合があります。許可申請前に必ず加入手続きを完了させることをお勧めします。許可の申請は都道府県の窓口、健康保険・厚生年金の加入は年金事務所に相談します。
Q3. 労務費を工事原価に計上する際の注意点は?
労務費は実際に支払った給与や手当のみ計上可能です。社会保険料や雇用保険料は別途計上します。水増しや虚偽計上は査察対象となります。会計帳簿と給与台帳の整合性を取ることが重要。領収書や給与明細の保管も欠かせません。
Q4. 個人事業主や一人親方の労務費計上方法は?
個人事業主本人の分を労務費や給与としてどう扱うかは、税理士に確かめてください。なお、個人事業主本人は健康保険・厚生年金に入れず、国民健康保険と国民年金に入ります。一人親方で許可取得を目指す場合、社会保険加入と合わせて顧問税理士に相談し、適切な会計処理を確認してください。
Q5. 社会保険加入後、どのような書類を許可申請時に提出しますか?
健康保険等の加入状況(様式第7号の3)に、直近の保険料の領収証書や雇用保険被保険者証などの写しを添えます。必要な書類と期限は申請先の手引きで確かめてください。申請予定日から余裕を持って加入手続きを進め、必要書類を早めに揃えることをお勧めします。
まとめ
建設業許可の申請要件は、単なる書類提出ではなく、事業者の実際の労働環境・安全管理体制を問うものです。本記事でお伝えした重要な三点をまとめます。
第一に、社会保険加入義務は許可申請の必須要件であり、適用事業所であれば健康保険・厚生年金保険・雇用保険に加入していることが要件です(常時5人未満の個人事業所は健康保険・厚生年金の適用事業所ではありません)。加入状況を示す書類(健康保険等の加入状況・保険料の領収証書の写しなど)は、申請時に必ず提出を求められます。
第二に、労務費の適切な計上は、申請に使う決算書を正しく作り、工事ごとの原価をつかむための土台です。労務費と材料費の比率は許可の要件ではないため、決まった比率に合わせるのではなく、実態どおりに科目を分けて記帳しましょう。
第三に、就業規則の作成と安全措置の法令遵守は、働く人を守ると同時に、元請からの確認に応えるための土台です。常時10人以上の従業員がいる事業場では、就業規則を作って労働基準監督署へ届け出る必要があります(労働基準法第89条)。安全衛生の体制づくりとあわせて進めましょう。
自社や取引先の許可の業種・許可番号・有効期限は、会社名や許可番号から調べられる建設業許可業者の検索でも確かめられます。
出典:建設業法(e-Gov 法令検索)・国土交通省「建設業の許可とは」(確認日 2026-09-28)
この記事は一般的な情報をまとめたものです。法令や制度は変わることがあるため、最新の内容は公表元で確認し、個別の判断は窓口の役所や専門家(行政書士・社会保険労務士・税理士など)に相談してください。
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