「そろそろ引退を考えているが、建設業許可の扱いはどうなるのか」「後継者は決まったが、許可申請の手続きが複雑で何から手をつければよいかわからない」――こうした悩みを抱える建設会社経営者は少なくありません。建設業許可の事業承継は、単なる経営者交代ではなく、許可要件の確認から変更申請、経営事項審査への影響まで、多岐にわたる実務が伴います。2026年現在、中小建設会社の経営者の高齢化が進み、事業承継の成否が会社存続の鍵を握る時代になっています。この記事では、後継者決定から建設業許可の変更手続き完了までを5つのステップに分けて解説します。親族内承継と第三者承継の違い、許可申請のスケジュール管理、経営事項審査との関係まで、実務担当者が知っておくべきポイントを網羅的にお伝えします。
この記事は、建設会社の事業承継を後継者決めから許可の手続きまで5つの段階で通して見る入口です。許可番号を引き継ぐ手続き(事前の認可)は「許可番号を引き継げる?事業承継・M&Aで建設業許可はどうなるか」で詳しく解説しています。
事業承継の全体像と建設業許可への影響
建設業界における事業承継の現状
建設業界では経営者の高齢化が深刻な課題となっています。建設業では就業者の高齢化が進み、経営者の世代交代も課題になっています。後継者不在により廃業を選択する企業も増加しており、優良な技術や取引先との関係が失われるケースも見られます。
事業承継には大きく分けて親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)の3つの選択肢があります。それぞれで建設業許可の手続きが異なるため、早期に承継方法を決定し、計画的に準備を進めることが重要です。特に建設業許可は会社の生命線であり、承継手続きの失敗は事業継続に直結する重大なリスクとなります。
建設業許可が事業承継に与える影響
建設業許可は「許可を受けた法人」または「許可を受けた個人事業主」に対して与えられるものです。そのため、経営者が交代する場合、許可の種類や承継方法によって必要な手続きが大きく変わります。
個人事業主の場合も、2020年10月からは事前の認可(事業譲渡)や、死亡後30日以内の認可の申請(相続)で後継者が許可を引き継げます。一方、法人の場合は会社自体が許可を受けているため、代表者や役員の変更であれば変更届出で対応できます。ただし、経営業務の管理責任者(経管)や専任技術者(2024年12月から営業所技術者)の要件を満たす人材が承継後も在籍していることが前提となります。
許可申請 手続きを怠ると、許可の失効や更新不可といった事態を招き、500万円以上の工事を請け負えなくなります。事業承継を検討する段階から、建設業許可の要件確認と手続きスケジュールの策定が不可欠です。
ステップ1:承継方法の選択と後継者の決定
親族内承継と第三者承継の選択基準
事業承継の第一歩は、誰に事業を引き継ぐかを決定することです。親族内承継は、経営理念や企業文化の継続がしやすく、従業員や取引先からの理解も得やすいメリットがあります。ただし、後継者に経営者としての資質や建設業に関する知識・経験が求められます。
一方、第三者承継(M&A)は、後継者不在の場合の有力な選択肢です。建設業のM&Aの価格に一律の相場はなく、建設業許可の種類(一般・特定)、経営事項審査の評点、保有する技術者数、取引先との関係性などによって大きく変動します。特に特定建設業許可を保有し、公共工事の実績が豊富な企業は高評価を得やすい傾向にあります。
後継者の要件確認と育成計画
建設業許可を維持するためには、後継者が経営業務の管理責任者としての要件を満たす必要があります。具体的には、建設業に関して5年以上の経営経験、または6年以上の経営補佐経験が求められます(建設業法第7条)。
後継者がこれらの要件を満たしていない場合、承継前に取締役などの役員に就任させ、実務経験を積ませる必要があります。経営経験のカウントには、登記簿謄本や組織図、業務分掌規程などの客観的証明が必要なため、計画的な準備が重要です。また、営業所技術者の要件を満たす技術者の確保・育成も並行して進める必要があります。
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許可更新と経営事項審査のタイミング調整
建設業許可の有効期間は5年間であり、更新申請は有効期間満了日の30日前までに行う必要があります。事業承継のタイミングが許可更新時期と重なる場合、特に注意が必要です。
また、公共工事を受注している企業では、後継者 経営事項審査への影響も考慮しなければなりません。経営事項審査は毎年受審する必要があり、経営者の交代によって評点が変動する可能性があります。特に経営状況分析(Y評点)や技術職員数(Z評点)への影響を事前に試算し、取引先への説明資料を準備しておくことが望ましいです。
事業承継計画書の作成
事業承継を円滑に進めるためには、3〜5年程度の期間を見据えた事業承継計画書の作成が有効です。計画書には以下の項目を盛り込みます。
- 現経営者の引退時期と後継者の就任時期
- 後継者の育成スケジュール(経管要件の充足計画)
- 建設業許可の変更届出または新規申請のタイミング
- 経営事項審査の受審スケジュール
- 取引先・金融機関への説明時期
- 株式・事業用資産の承継方法
計画書は社内での共有だけでなく、行政書士などの専門家による確認を受けることで、手続き上の漏れやリスクを最小限に抑えられます。
ステップ3:建設業許可の要件確認と事前準備

経営業務の管理責任者と営業所技術者の確保
建設業許可の維持に最も重要なのが、経営業務の管理責任者(経管)と営業所技術者の確保です。事業承継時には、この2つの要件を承継後も満たせるかを必ず確認します。
経管については、後継者が要件を満たさない場合でも、常勤役員のうち1名が要件を満たしていれば許可は維持できます。ただし、将来的に後継者自身が経管となれるよう、計画的に経験を積ませることが重要です。
営業所技術者については、1級・2級施工管理技士などの国家資格保有者、または実務経験10年以上(特定許可の場合はより厳格な要件)を満たす技術者が営業所ごとに常勤している必要があります。事業承継を機に技術者が退職するリスクも考慮し、複数の有資格者を確保しておくことが望ましいです。
財産的基礎要件の確認
建設業許可には財産的基礎要件もあります。一般建設業許可の場合、自己資本500万円以上または500万円以上の資金調達能力が必要です。特定建設業許可の場合は、資本金2,000万円以上、自己資本4,000万円以上、流動比率75%以上などのより厳しい要件があります。
事業承継時に代表者の個人保証を後継者に引き継ぐ場合、後継者の資金調達能力が問題となることがあります。金融機関との事前相談や、事業承継税制の活用も含めた資金計画の策定が必要です。
ステップ4:建設業許可の変更届出・承継の認可
法人の場合の変更届出手続き
法人で代表者や役員が交代する場合、変更があった日から30日以内に都道府県知事または国土交通大臣に変更届出を提出する必要があります(建設業法第11条)。提出書類には以下が含まれます。
- 変更届出書(様式第22号の2)
- 新役員の略歴書
- 新役員の住民票
- 新たな経管または営業所技術者の証明書類(該当する場合)
- 登記事項証明書(商業登記簿謄本)
変更届出を怠ると、建設業法違反として罰則の対象となり、最悪の場合は許可取消処分を受ける可能性もあります。手続きは必ず期限内に完了させることが重要です。
個人事業主の場合の承継(認可)
2020年10月の改正から、個人事業主の事業を後継者や法人に譲る場合(法人成りを含む)は、事前に許可行政庁の認可を受ければ許可を引き継げます(建設業法第17条の2)。経営者が亡くなった場合の相続は、死亡後30日以内に認可を申請します(同法第17条の3)。
認可を受けずに承継すると、後継者は新規の許可を取り直すことになり、その間は500万円以上の工事を請け負えません。認可は承継の効力が生じる前に受ける必要があるため、早めに許可行政庁へ相談しましょう。
また、個人事業を法人化する場合、屋号や商号の使用、取引先との契約関係の引き継ぎなど、建設業許可以外の法的手続きも多岐にわたります。司法書士や税理士との連携も欠かせません。
ステップ5:事業承継後のフォローアップ
取引先・協力会社への説明と関係維持
建設業では、発注者や協力会社との信頼関係が事業の根幹です。事業承継が完了したら、速やかに主要取引先へ後継者を紹介し、経営方針や体制の継続性を説明することが重要です。
特に公共工事を受注している場合、発注者である自治体や公共機関への報告も必要です。経営事項審査の結果通知書に記載される代表者名も変更されるため、入札参加資格申請の変更手続きも忘れずに行います。
事業承継税制・補助金の活用
2026年現在、事業承継を支援する税制優遇措置や補助金制度が複数用意されています。事業承継税制(非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予制度)を活用すれば、後継者が株式を取得する際の税負担を大幅に軽減できます。
また、中小企業庁の事業承継・M&A補助金では、M&A時の専門家費用や、承継後の新事業展開に必要な設備投資などが補助対象となります。これらの制度を活用することで、事業承継に伴う財務的負担を軽減し、承継後の事業成長につなげることができます。
継続的なモニタリングと改善
事業承継は、形式的な手続きが完了しても終わりではありません。承継後1〜2年間は、経営指標のモニタリングや後継者への助言など、前経営者による伴走支援が有効です。
建設業許可の面では、次回の更新申請までに後継者が経管要件を完全に満たせるよう実績を積むこと、専任技術者の退職に備えて後継技術者を育成すること、経営事項審査の評点維持・向上のための体制整備などが継続的な課題となります。
よくある質問
Q1. 建設業許可は事業承継でそのまま引き継げますか?
2020年10月の改正から、事業の譲渡(法人成りを含む)と合併・分割は事前の認可、相続は死亡後30日以内の認可申請で許可を引き継げます(建設業法第17条の2・第17条の3)。法人で役員が代わるだけなら変更届です。経営業務管理責任者や営業所技術者の要件を満たす後継者を事前に育成し、許可の空白期間が生じないよう計画的に手続きを進めることが重要です。
Q2. 後継者に必要な経営業務管理責任者の要件とは?
経営業務管理責任者になるには、建設業の経営経験が5年以上必要です。ただし令和2年の法改正により、補佐する者を置く形もありますが、その場合も常勤役員等に建設業の役員等の経験2年以上を含む5年以上の経験が要ります。後継者候補を早期に役員に就任させ、実務経験を積ませることで要件を満たす準備を進めましょう。
Q3. 事業承継時の建設業許可変更届の提出期限は?
役員変更は変更後30日以内、商号や所在地変更も30日以内の届出が必要です。経営業務の管理責任者や営業所技術者(旧 専任技術者)の変更は、これより短い2週間以内です。提出期限を過ぎると許可取消しや罰則の対象となる可能性があるため、承継計画の段階で行政書士等の専門家に相談し、スケジュール管理を徹底しましょう。
Q4. 親族以外への事業承継でも建設業許可は維持できますか?
可能です。親族外承継でも、後継者が経営業務管理責任者と営業所技術者の要件を満たし、適切な変更手続きを行えば許可は維持できます。むしろ優秀な従業員や外部人材への承継により経営力が向上するケースもあります。ただし株式譲渡や事業譲渡の形態により手続きが異なるため事前確認が必須です。
Q5. 事業承継前に整理すべき建設業の許可関連書類は?
過去5年分の工事実績、決算書類、技術者の資格証明書、社会保険加入証明書などが必須です。特に経営事項審査を受けている場合は評点に影響するため、工事台帳や契約書の整備が重要です。これらの書類を承継前に整理し、デジタル化しておくことで、スムーズな引継ぎと許可更新時の手続き効率化が実現できます。
まとめ
建設会社の事業承継を成功させるには、①承継方法の選択と後継者決定、②事業承継計画の策定、③建設業許可要件の確認と事前準備、④変更届出または新規申請の実施、⑤承継後のフォローアップという5つのステップを着実に進めることが重要です。特に建設業許可の事業承継では、経営業務の管理責任者や営業所技術者の要件確認、変更届出の期限管理、経営事項審査への影響など、建設業特有の実務が複雑に絡み合います。個人事業主の承継は事前の認可で許可を引き継げるため、承継の効力が生じる前に手続きを済ませてください。親族内承継でも第三者承継でも、早期の計画策定と専門家の活用が成功の鍵となります。まずは現在の建設業許可の内容と後継者候補の要件充足状況を確認することから始めましょう。
自社や取引先の許可の業種・許可番号・有効期限は、会社名や許可番号から調べられる建設業許可業者の検索でも確かめられます。
承継の前後に、自社の許可(業種・一般/特定・有効期限)が公開の情報でどう載っているかを都道府県別・業種別の建設会社の一覧から自社の会社ページで確かめられます(載っている情報は、会社ページの「データの更新日」の時点のものです)。
出典:建設業法(e-Gov 法令検索)・国土交通省「建設業の許可とは」(確認日 2026-09-28)
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