公正取引委員会による入札談合の摘発もある中、2026年6月には香川県発注の土木工事を巡り、20社に排除措置命令、27社に課徴金納付命令が出されました。建設業界では「慣習」として見過ごされてきた受注調整も、独占禁止法違反として厳しく処罰される時代です。談合による法的制裁は企業経営に致命的な打撃を与え、営業停止や指名停止、刑が確定した場合は建設業許可の取消しも受け、事業継続そのものが危うくなります。本記事では、入札談合がもたらす具体的なリスクと、建設会社が今すぐ実施すべきコンプライアンス対策、さらに人材不足や事業承継など業界が抱える構造的課題への対応策までを、実務的な視点から解説します。
香川県談合事件から学ぶ入札談合のリスク
排除措置命令と課徴金の実態
2026年に公正取引委員会が発表した香川県発注土木工事の入札談合事件では、談合した29社のうち20社に排除措置命令、27社に課徴金 計4億4,177万円の納付命令が下されました。この事案では、複数年にわたって受注予定者を事前に決定し、他の業者が協力して落札価格を調整する「談合」が繰り返されていました。
排除措置命令とは、独占禁止法に違反する行為を行った事業者に対して、その行為を取りやめることや再発防止措置を講じることを命じる行政処分です。さらに課徴金は、違反行為の対象となった売上額に算定率を掛けた額を国庫に納付させる制度で、算定率は原則10%(中小企業は4%)です(独占禁止法第7条の2)。工事規模が大きいほど課徴金額も増大し、中小建設会社にとっては経営を揺るがす金額になります。
談合がもたらす企業への深刻な影響
入札談合が発覚した場合、建設会社が受ける影響は課徴金だけではありません。発注者からの指名停止措置の期間は発注者が定める指名停止の措置要領で決まり、その期間中は公共工事への入札参加資格を失います。年間売上の大半を公共工事に依存する土木業者にとって、この指名停止は事実上の経営危機を意味します。
さらに重大なのは、建設業許可の取消しリスクです。独占禁止法違反や談合罪(刑法第96条の6)は、建設業法第28条の監督処分(指示・営業停止)の対象です。さらに役員などが拘禁刑以上の刑を受けると許可の欠格要件に当たり、建設業許可は取り消されます(建設業法第8条・第29条)。許可取消しとなれば、500万円以上の工事を請け負うことができなくなり、事業継続が事実上不可能になります。加えて社会的信用の失墜により、民間工事の受注も困難になり、取引先や金融機関との関係にも深刻な影響が出ます。
排除措置命令から指名停止までの順番と期間
排除措置命令と指名停止は、出す所も根拠も違います。順番に並べると、次のようになります。
- 公正取引委員会の処分:独占禁止法にもとづき、排除措置命令や課徴金納付命令が出されます(悪質な事件では刑事告発もあります)
- 発注者が処分を知る:国や自治体などの発注者が、命令や告発があったことを知ります
- 発注者ごとの指名停止:それぞれの発注者が、自分の指名停止の要領にもとづいて、入札に参加させない期間を決めます
期間は発注者ごとに違います。たとえば国土交通省の地方整備局の要領(令和2年12月25日 最終改正)では、その地方整備局の管内で独占禁止法に違反した場合は「2か月以上9か月以内」、その地方整備局と結んだ契約の工事で違反した場合は「3か月以上12か月以内」と定めています。課徴金が重くなる場合などは、短い方の期間を2倍にする特例もあります。
都道府県や市町村も、それぞれ独自の要領を持っています。1つの事件で、複数の発注者から別々に指名停止を受けることもあるため、影響は1か所の入札だけにとどまりません。自社が入札に参加している発注者の要領を、ふだんから一度読んでおくと、どのような行為でどれだけの期間止まるのかがつかめます。
建設会社が実施すべきコンプライアンス対策

社内体制の整備と教育の徹底
入札談合を防止するためには、経営層のコミットメントに基づく明確な社内体制の構築が不可欠です。まずコンプライアンス規程の策定から始めましょう。規程には独占禁止法の遵守、競合他社との不適切な接触の禁止、違反行為の通報制度などを明記します。
次に重要なのが定期的な社員教育です。特に営業担当者や入札業務に携わる従業員には、年に2回以上の研修を実施し、どのような行為が談合に該当するのか、具体的な事例を用いて理解を深めることが重要です。「業界の慣習だから」という意識を払拭し、法令遵守が企業存続の前提であることを組織全体に浸透させる必要があります。
入札手続きにおける具体的な注意点
日常の入札業務においても、談合を疑われる行為を徹底的に排除する仕組みが必要です。競合他社との接触ルールを明確化し、入札前の情報交換や受注調整と誤解される可能性のある行動を禁止します。業界団体の会合などでも、入札案件に関する具体的な話題には触れないよう注意が必要です。
また入札書類の管理体制を厳格化し、見積内容や入札価格の決定プロセスを記録として残すことも重要です。透明性のある意思決定プロセスを構築することで、不正の入り込む余地を排除できます。電子入札システムの活用により、手続きの透明性を高めることも有効な対策となります。
人材不足・事業承継時代の建設業経営戦略
土木工事の人材不足と対策
談合問題の背景には、建設業界が抱える構造的な課題も存在します。南海トラフ対策工事など大規模インフラ整備の必要性が高まる一方で、高知県をはじめ地方の土木業界では60歳代の技術者に依存する状況が続いています。若手人材の確保と育成は、業界全体の喫緊の課題です。
人材不足への対応として、働き方改革の推進と賃金水準の改善が不可欠です。2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されており、週休2日制の導入や労働環境の改善なくして若手の採用は困難です。また国土交通省が推進する「建設キャリアアップシステム」を活用し、技能者の適正な評価と処遇改善を進めることも重要です。
建設業のM&A・事業承継という選択肢
後継者不在に悩む建設会社経営者にとって、M&Aや事業譲渡は有力な選択肢となっています。特に土木工事業では、建設業許可や取引実績、熟練技術者といった無形資産の価値が高く、適切な相手への事業承継により、従業員の雇用と取引先との関係を維持できます。
事業承継を検討する際は、早期の準備が重要です。財務状況の整理、許認可の確認、コンプライアンス体制の整備など、企業価値を高める取り組みを計画的に進めることで、より良い条件での承継が可能になります。専門家のサポートを受けながら、自社の状況に最適な承継方法を選択しましょう。
補助金活用による経営基盤の強化
中小建設業者が活用できる経営支援策として、2026年度も小規模事業者持続化補助金や中小企業新事業進出補助金(事業再構築補助金の後継)などが用意されています(公募の時期と要件は各事務局の案内で確認)。これらの補助金を活用することで、DX化による業務効率化、新分野への進出、人材育成への投資など、経営基盤強化のための資金を確保できます。
特に経営力向上計画の認定を受けることで、中小企業経営強化税制(設備投資の即時償却または税額控除)や金融支援など、複数のメリットを享受できます。法令遵守体制の整備や生産性向上の取り組みを計画に盛り込むことで、コンプライアンス強化と経営改善を同時に進められます。補助金申請には専門的な知識が必要なため、中小企業診断士や行政書士などの専門家に相談することをお勧めします。
よくある質問
Q1. 入札談合で排除措置命令を受けるとどんな処分がありますか?
排除措置命令を受けると、違反行為の停止、再発防止策の実施が命じられます。さらに課徴金納付命令(対象の売上額の原則10%・中小企業は4%)、指名停止(期間は発注者の基準による)、刑事告発の可能性もあります。公共工事の入札参加資格を失い、経営に重大な影響が出ます。
Q2. 談合に該当する具体的な行為にはどのようなものがありますか?
受注予定者の事前決定、入札価格の調整、最低制限価格の情報共有、受注業者の順番決め、意図的な入札辞退などが該当します。会合での口頭合意だけでなく、メールやLINEでの情報交換も証拠となり、独占禁止法違反に問われます。
Q3. 談合を防ぐために社内でどんな対策が必要ですか?
コンプライアンス規程の整備、役職員への定期的な研修実施、入札手続きの明確化と記録保存、競合他社との不適切な接触禁止ルールの策定が必要です。内部通報制度の設置、入札情報の管理責任者指定も有効な予防策となります。
Q4. 従業員が談合に関与していた場合、会社の責任はどうなりますか?
独占禁止法では従業員の行為も会社の責任となり、会社が排除措置命令と課徴金納付命令を受けます。従業員個人も刑事罰(5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金・独占禁止法第89条)の対象で、会社にも5億円以下の罰金が科されることがあります。会社は従業員への監督責任も問われます。
Q5. 談合の疑いで公正取引委員会の調査が入った場合の対応は?
調査には誠実に協力し、資料提出や質問に正確に回答することが重要です。弁護士に即座に相談し、リニエンシー(課徴金減免)制度の適用可能性を検討します。証拠隠滅は重大な違反となるため、関係資料は保全し適切に対応してください。
まとめ
入札談合は企業経営を根底から揺るがす重大なリスクであり、排除措置命令・課徴金・指名停止・建設業許可取消しなど、多重の制裁を受ける可能性があります。重要なポイントは以下の3点です。第一に、コンプライアンス規程の策定と定期的な社員教育により、組織全体に法令遵守の意識を浸透させること。第二に、入札手続きの透明性を確保し、競合他社との不適切な接触を徹底的に排除すること。第三に、人材不足や事業承継といった構造的課題にも目を向け、補助金活用やM&Aなど多様な選択肢を検討すること。談合リスクの排除は企業防衛の基本であり、同時に持続可能な経営基盤の構築にもつながります。まずは自社のコンプライアンス体制を点検し、不足があれば今日から改善に着手しましょう。
工事を頼む先や協力会社を探すときは、全国の土木工事業の許可業者を都道府県別に調べられる土木工事業の許可業者一覧もお使いください。
出典:建設業法(e-Gov 法令検索)・国土交通省「建設業の許可とは」(確認日 2026-10-02)
この記事は一般的な情報をまとめたものです。法令や制度は変わることがあるため、最新の内容は公表元で確認し、個別の判断は窓口の役所や専門家(行政書士・社会保険労務士・税理士など)に相談してください。
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