建設業許可を取得している事業者であっても、「無許可工事」や「虚偽申請」によって逮捕や書類送検される事例もあります。2026年6月には大阪・関西万博のタイ館の工事を無許可で請け負ったとして会社と経営者らが書類送検され、2024年2月には仙台で虚偽の書類による許可申請で行政書士らが逮捕されるなど、建設業界を揺るがすニュースが続いています。許可取得後の維持管理を怠ったり、資本金増資による許可区分変更の手続きを誤ったりすると、指名停止や行政処分だけでなく刑事責任を問われる事態に発展します。本記事では、実際に発生した虚偽申請・無許可工事の事例を詳しく解説し、建設会社が絶対に避けるべき失敗パターンと、許可区分変更時の正しい手続き方法をご紹介します。経営者として知っておくべきリスク回避策を確認しましょう。
実際に起きた建設業許可違反の逮捕・書類送検事例
大阪万博関連工事での無許可営業事件
2024年10月、群馬県高崎市の建設会社が、大阪・関西万博のタイパビリオン(タイ館)の電気設備の工事(約4,400万円)を建設業許可なしで請け負った疑いが持たれました。大阪府は2025年9月にこの会社へ営業停止30日の処分を出し、2026年6月には大阪府警が経営者ら2人と会社を建設業法違反の疑いで書類送検しています。
建設業法では、軽微な建設工事(建築一式工事の場合は1,500万円未満、その他の工事では500万円未満)を除き、建設業許可が必要です。本件は、許可を取得していない状態で、この基準を大きく超える工事を請け負ったとされる事例です。注目度の高い工事であっても、受注する前に自社の許可の業種と金額の範囲を確かめることが欠かせません。
仙台での虚偽申請による行政書士逮捕事件
2024年2月、仙台市太白区の行政事務所の行政書士2人と職員1人の計3人が、2021〜22年に解体業など3社の代理人として虚偽の書類を宮城県に出し、建設業許可を得させた疑い(建設業法違反)で宮城県警に逮捕されました。専門家である行政書士が関与していた点が問題視されています。
報道によると、許可の要件を満たすように見せるため、実際とは違う工事の実績などを書類に記したとされます。建設業許可申請では、常勤役員等や営業所技術者等(旧 専任技術者・2024年12月13日の改正で名前が変わりました)の配置、一定の財産的基礎(資本金や純資産額)などの要件が定められており、これらを偽って申請することは建設業法で禁じられています。
無許可工事が発覚する主なきっかけ
無許可工事や虚偽申請は、以下のような経路で発覚することが多くなっています。
- 元請業者や発注者からの通報:工事現場での確認時に許可票の不備を発見
- 工事トラブルからの調査:近隣住民からの苦情や工事事故をきっかけに行政調査が入る
- 更新手続き時の整合性確認:建設業許可の更新時に過去の申請内容との矛盾が判明
- 同業他社や元従業員からの情報提供:競合関係や労務トラブルから通報されるケース
いずれの場合も、一度発覚すると行政処分だけでなく刑事責任を問われる可能性が高く、会社の存続に関わる重大事態となります。
建設業許可の虚偽申請・無許可工事がもたらす致命的リスク

刑事罰と行政処分のダブルパンチ
建設業法違反による無許可営業や虚偽申請には、厳しい罰則が定められています。
刑事罰としては、建設業法第47条により、無許可営業の場合は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(法人の場合は1億円以下の罰金)が科される可能性があります。虚偽の申請書を出した場合は、建設業法第50条により6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象となります。
行政処分としては、以下のような段階的な処分が下されます。
- 指示処分:違反内容の是正を命じられる
- 営業停止処分:1年以内の期間の営業が禁止される(建設業法第28条第3項)
- 許可取消処分:建設業許可そのものが取り消される
特に、不正な手段で許可を受けたことなどを理由に許可を取り消された場合は、取消しの日から5年間は新たに許可を受けられません(建設業法第8条)。事業を続けるうえで大きな打撃になります。
指名停止による経営へのダメージ
公共工事を受注している建設会社にとって、最も恐れるべきは指名停止措置です。
国土交通省や地方自治体は、建設業法違反を起こした業者を指名停止業者として公表し、発注者ごとの指名停止の措置要領で決まる期間、入札参加を認めません。指名停止期間中は新規の公共工事を受注できないため、売上が急減し、経営危機に直結します。
さらに、指名停止情報はインターネット上で公開されるため、民間工事でも取引先から敬遠され、企業イメージの失墜は避けられません。指名停止をきっかけに資金繰りが悪化するおそれもあります。
社会的信用の喪失と取引先への影響
書類送検や逮捕の事実は報道されることが多く、一度ニュースになると社会的信用は地に落ちます。
- 既存の取引先から契約を打ち切られる
- 金融機関からの融資が受けられなくなる
- 優秀な人材が離職し、採用も困難になる
- 協力業者・下請業者との関係が悪化する
特に元請として活動している場合、発注者からの信頼を失うことは事業継続の最大リスクとなります。
資本金増資と許可区分変更時の正しい手続きと注意点
一般建設業と特定建設業の許可区分の違い
建設業許可には「一般建設業許可」と「特定建設業許可」の2つの区分があります。
一般建設業許可は、下請に出す工事の総額が5,000万円未満(建築一式工事の場合は8,000万円未満)の場合に必要な許可です。財産的基礎要件として、自己資本500万円以上か、500万円以上の資金を調達できること(預金の残高証明など)が求められます。
特定建設業許可は、下請に出す工事の総額が5,000万円以上(建築一式工事の場合は8,000万円以上)となる場合に必要です。財産的基礎要件はより厳しく、資本金2,000万円以上、自己資本4,000万円以上、流動比率75%以上などの条件を満たす必要があります。
事業規模が拡大し、大型工事で多額の下請発注が必要になった際には、一般から特定への許可区分変更を検討することになります。
資本金増資による許可区分変更の手続き
特定建設業許可を取得するために資本金を増資する場合、以下の手順で進めます。
- 資本金増資の実施:株主総会決議を経て、登記変更を完了させる
- 変更届の提出:資本金額変更から30日以内に「変更届出書」を提出
- 許可区分変更申請:特定建設業許可の新規申請を行う(または更新時に区分変更)
- 財産的基礎の証明:増資後の財務諸表、登記事項証明書などを添付
ここで注意すべきは、虚偽の財務諸表や架空増資による申請は絶対に行ってはいけないという点です。前述の仙台の事例のように、書類に事実と違う内容を記して許可を得ると、発覚したときに刑事責任を問われます。
許可申請時に絶対にやってはいけないこと
建設業許可の更新手続きや許可区分変更時に、以下のような不正行為は厳に慎むべきです。
- 実在しない技術者の記載:営業所技術者として実際には在籍していない人物を記載する
- 経験年数の水増し:工事経歴や実務経験年数を実際より長く記載する
- 財務諸表の改ざん:資本金や純資産額を実際より多く見せるために数字を操作する
- 他社の許可証の流用:名義貸しや許可の又貸しを行う
- 変更届の未提出:役員変更、営業所移転、技術者交代などを届け出ない
これらは一時的に審査を通過できたとしても、更新時の整合性確認や、工事現場での立入検査、トラブル発生時の調査などで必ず発覚します。発覚した場合の代償は計り知れません。
行政書士など専門家への依頼時の注意点
建設業許可申請を行政書士などの専門家に依頼する際も、依頼者側の責任は免れません。
- 必ず信頼できる専門家を選ぶ:実績や評判を確認し、格安を謳う業者には注意
- 虚偽記載を依頼しない:要件を満たしていない場合、正直に相談し正攻法で対応を検討する
- 提出書類の内容を必ず確認する:専門家任せにせず、自社で内容をチェックする
- 不審な提案には従わない:「とにかく通します」といった安易な提案は危険信号
仙台の事例では専門家自身が逮捕されましたが、依頼者である建設会社も共犯として処分される可能性があります。専門家だからといって盲信せず、自社でもコンプライアンス意識を持つことが重要です。
よくある質問

Q1. 建設業許可申請で虚偽記載をするとどんな罪に問われますか?
虚偽の申請書を出すと建設業法第50条(6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)、不正の手段で許可を受けると第47条(3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)の対象になります。書類を偽造すれば私文書偽造罪などに当たることもあり、会社だけでなく代表者個人が刑事責任を問われることもあります。さらに許可取消しや営業停止処分となり、5年間は再申請できなくなります。
Q2. 経営事項審査で実績を水増しした場合、後から発覚しますか?
発覚する可能性は非常に高いです。行政は契約書、請求書、入金記録などの裏付け資料を照合し、取引先への確認調査も行います。また、内部告発や取引先からの通報、税務署との情報共有により虚偽が判明するケースが多く、必ず発覚すると考えるべきです。
Q3. 技術者の実務経験を偽って申請した場合、どのように調査されますか?
行政は社会保険記録、源泉徴収票、過去の工事台帳などで実務経験の真偽を確認します。また、記載された工事の発注者や元請業者に直接照会することもあります。技術者本人への聴取も行われ、具体的な工事内容を答えられない場合は虚偽と判断されます。
Q4. 無許可で500万円以上の工事を受注した場合の罰則を教えてください
建設業法違反として、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金に処せられます。法人の場合は両罰規定により、行為者と法人の双方が処罰対象となります。さらに、今後の許可取得が困難になり、元請業者や発注者からの信用を失い、事業継続が困難になる可能性があります。
Q5. 過去の虚偽申請が判明した場合、自主申告すれば処分は軽くなりますか?
自主申告により、行政処分が軽減される可能性はありますが、虚偽の内容や悪質性によって判断されます。速やかに所管の都道府県や国土交通省に相談し、是正措置を講じることが重要です。ただし、刑事責任は免れない場合もあるため、弁護士への相談も併せて行うべきです。
まとめ
建設業許可の虚偽申請や無許可工事は、刑事罰・行政処分・指名停止という三重の打撃をもたらし、会社の存続そのものを脅かします。実際に、この記事で紹介した仙台の行政書士の事件や万博のタイ館の工事のような事例が起きており、決して他人事ではありません。資本金増資による許可区分変更を行う際には、正確な財務情報に基づいた適切な申請を行い、虚偽記載は絶対に避けなければなりません。また、建設業許可の更新手続きや変更届の提出を怠ることなく、常に最新の状態を維持することが求められます。専門家に依頼する場合も、依頼者自身がコンプライアンス意識を持ち、提出書類の内容を確認する姿勢が不可欠です。まずは自社の許可要件を改めて確認し、不明点があれば都道府県の建設業担当窓口に相談することから始めましょう。
自社や取引先の許可の業種・許可番号・有効期限は、会社名や許可番号から調べられる建設業許可業者の検索でも確かめられます。
出典:建設業法(e-Gov 法令検索)・国土交通省「建設業の許可とは」(確認日 2026-10-04)
この記事は一般的な情報をまとめたものです。法令や制度は変わることがあるため、最新の内容は公表元で確認し、個別の判断は窓口の役所や専門家(行政書士・社会保険労務士・税理士など)に相談してください。
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