熱中症で​作業員が​倒れたとき経営者が​問われる責任|​法的責任と防止策

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お茶と水のペットボトル3本

建設現場での熱中症は毎年必ず発生しています。厚生労働省の統計では、2025年に職場の熱中症で死亡または4日以上休業した人は1,803人と、統計を取り始めてから最も多くなりました。建設業は292人で製造業(365人)に次いで多く、亡くなった人は建設業の5人が業種別で最多です(2021〜2025年の5年間でも、死亡131人のうち建設業が52人。出典:厚生労働省「令和7年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」2026年5月27日公表)。問題は「防げた事故だったか」です。2025年6月からは熱中症の対策が法令の義務になり、対策を取っていたことを示せないと、会社が刑事と民事の両方の責任を問われるおそれがあります。

目次

Q. 建設現場での熱中症は「労災」か「経営者責任」か——2026年の実態

結論として、熱中症は「労災認定」と「経営者の民事・刑事責任」の両方が問われることがあります。

  • 労災認定:業務中の熱中症は、条件を満たせば労災として認められます。休業補償・医療費は労災保険から出ますが、これは「経営者の責任がない」ことを意味しません
  • 安全配慮義務違反(民事):労働契約法第5条は、使用者に労働者の生命・身体の安全を確保するための配慮を求めています。対策を怠ったと判断されれば、労災保険で埋まらない損害(慰謝料など)の賠償を求められます
  • 労働安全衛生法違反(刑事):2025年6月から、熱中症のおそれのある作業では、報告の体制と悪化を防ぐ手順を定めて周知することが義務になりました(労働安全衛生規則第612条の2)。違反すると、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(労働安全衛生法第22条・第119条)。会社と、実際に違反した人の両方が罰せられます(同法第122条)
作業着でペットボトルの水を飲む男性
作業着でペットボトルの水を飲む男性(イメージ)

Q. 2025年6月から義務になった熱中症対策の中身

労働安全衛生規則第612条の2は、「暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業」を行うとき、事業者に次の2つを求めています。厚生労働省の通達では、WBGT(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の場所で、連続1時間以上または1日4時間を超えて行う作業が目安です。

  • 報告の体制を作って周知する:本人に熱中症の自覚症状があるとき、または周りの人が熱中症の疑いに気づいたときに、だれに・どうやって知らせるかを決め、作業する人に知らせておく
  • 悪化を防ぐ手順を定めて周知する:作業場ごとに、作業から外す・体を冷やす・必要に応じて医師の診察を受けさせる、といった措置とその手順を決め、作業する人に知らせておく
  • 対象の人:自社の労働者だけでなく、同じ場所で作業する人(作業従事者)が対象です。下請の職人や一人親方が入る現場では、報告の先と手順を全員に伝えておきます
水のボトルとタオルを持つ作業着の人
水のボトルとタオルを持つ作業着の人(イメージ)

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Q. 「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」で経営者に求められること

厚生労働省は毎年5月から9月まで「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を行い、「職場における熱中症防止のためのガイドライン」(令和8年3月)に沿った対策を呼びかけています。義務は第612条の2の2つですが、次の対策を合わせて取ることで、事故そのものを減らせます。

  • WBGT の測定:WBGT 計で現場の暑さ指数を測り、作業の強さに応じた基準値を超えるときは、休憩を増やす・作業の時間をずらすなどの対策を取る
  • 作業を止める基準を決める:WBGT の値ごとに、作業を続けるか・止めるかを社内で決めて、現場に貼り出す
  • 熱に慣れる期間:新しく入った人や休み明けの人は、7日以上かけて少しずつ暑い中での作業時間を長くする
  • 水分と塩分:多量の汗をかく作業場では、塩と飲料水を備えることが義務です(労働安全衛生規則第617条)
青空を背にした温度計
青空を背にした温度計(イメージ)

Q. 対策を取ったことを示すために残しておきたい記録3つ

法令は書類の名前を決めていませんが、「報告の体制と手順を定めて周知した」ことは、記録が無いと後から示せません。次の3つを残しておくと、監督署の調査や万一の事故のときに説明できます。

  • 報告の体制と悪化を防ぐ手順を書いた紙:連絡の先(職長・現場代理人・会社)、体を冷やす方法、救急車を呼ぶ基準、近くの病院を書き、現場に貼り出す。作業場ごとに作るのが決まりです
  • 周知した記録:朝礼や新規入場者教育で伝えた日と、聞いた人の名前。署名の欄のある1枚の用紙で足ります
  • WBGT と体調の記録(日ごと):その日の WBGT の値、休憩の回数、作業する人の体調の確認。「管理していた」ことの裏づけになります

Q. 元請が下請の職人を守るためにすること

下請の職人が倒れても、元請に責任が無いわけではありません。労働安全衛生法は、仕事の一部を下請に出す元請(元方事業者)に、次の役目を求めています。

元請の役目中身根拠
下請への指導と指示下請とその労働者が法令に違反しないよう指導し、違反を見つけたら是正を指示する労働安全衛生法第29条
混在する現場の管理協議の場を設け、作業の間の連絡・調整、現場の巡視などを行う同法第30条
統括安全衛生責任者下請が混在し、常時50人以上(ずい道などは30人以上)が働く現場では選任する同法第15条
元請(元方事業者)の主な役目(労働安全衛生法の条文をもとに作成)

熱中症についても、報告の先を現場で1つにそろえ、休憩所や冷たい飲み物を元請が用意しておくと、下請の職人が「言い出しにくい」ことを防げます。

Q. 作業員が倒れたときの初動と、事故の後の手続き

  1. 作業から外し、涼しい場所で体を冷やす:首・脇の下・足の付け根を冷やし、水分と塩分をとらせる
  2. 意識がおかしい・自分で飲めないときは、すぐに救急車を呼ぶ:待つ間も冷やし続け、1人にしない
  3. 会社への報告と記録:いつ・どこで・どんな作業中に・WBGT はいくつだったかを記録する
  4. 労働者死傷病報告:死亡または4日以上の休業になったときは、遅滞なく労働基準監督署に届け出る(労働安全衛生規則第97条・2025年1月から原則として電子申請)
  5. 同じ現場の見直し:休憩の回数・作業の時間・手順の周知を見直し、周知し直した記録を残す

まとめ:熱中症対策で経営者が今すぐ取るべき3点

  • 2025年6月からの義務を満たす:報告の体制と、悪化を防ぐ手順を作業場ごとに定め、下請の職人を含む全員に周知する(労働安全衛生規則第612条の2)
  • WBGT 計を置いて測る:基準値を超えたら休憩を増やす・作業をずらす。測った値を記録に残す
  • 労災と責任は別物:労災保険に入っていても、会社は安全配慮義務の賠償と、労働安全衛生法の罰則の両方を問われうる。記録が会社を守る

次のアクション: 今週中に、報告の体制と悪化を防ぐ手順を書いた紙を作業場ごとに作り、現場の見やすい場所に貼り出して、朝礼で全員に伝えてください(労働安全衛生規則第612条の2)。

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よくある質問

Q: 熱中症で作業員が死亡した場合、経営者は刑事責任を問われる?

2025年6月から、熱中症のおそれのある作業では報告の体制と悪化を防ぐ手順を定めて周知することが義務になりました(労働安全衛生規則第612条の2)。これを怠ると、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象で、会社と実際に違反した人の両方が罰せられます。重大な結果のときは業務上過失致死傷罪が問われることもあります。

Q: 従業員5名未満の小規模建設会社でも熱中症対策義務はある?

はい。労働安全衛生規則第612条の2 は会社の規模を問いません。対象は同じ場所で作業する人(作業従事者)で、下請の職人や一人親方も含みます。元請は、下請への指導と指示(労働安全衛生法第29条)と混在する現場の管理(第30条)を行い、常時50人以上が働く現場では統括安全衛生責任者を選任します(第15条)。

Q: WBGT(暑さ指数)の測定は法律の義務ですか?

WBGT の測定そのものは、厚生労働省の「職場における熱中症防止のためのガイドライン」(令和8年3月)で求められる対策で、罰則のある条文ではありません。ただし、第612条の2 の対象になる作業かどうかは WBGT 28度以上か気温31度以上が目安のため、測って記録しておくことが、義務を満たしているかを示す一番の材料になります。

出典:厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」・労働安全衛生法(e-Gov 法令検索)・厚生労働省「職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」(確認日 2026-09-28)
この記事は一般的な情報をまとめたものです。法令や制度は変わることがあるため、最新の内容は公表元で確認し、個別の判断は窓口の役所や専門家(行政書士・社会保険労務士・税理士など)に相談してください。

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この記事を書いた人

中小建設企業の経営改善・財務強化・事業承継を専門とするビジネスアドバイザー。建設業特有の下請管理・支払サイト問題・財務諸表の見方を中心に、経営基盤の強化につながる実務情報を発信。建設業の経審(経営事項審査)と公共工事受注の仕組み、労働環境改善・働き方改革対応の最前線情報にも精通。M&A・事業承継・廃業検討中の建設会社向け情報も担当。

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