建設会社M&Aを検討している経営者の皆様へ。事業承継や経営統合の話が進むなか、つい売却金額の交渉に注力してしまいがちです。しかし、実は指名停止や許可取り消しといったコンプライアンス上のリスクが、買収後の事業価値を大きく左右することをご存知でしょうか。香川県では、県が発注した工事の談合で、2026年7月に27社が8~12か月の指名停止を受けました。M&A前のコンプライアンスデューディリジェンスは、もはや選択肢ではなく必須項目です。本記事では、建設業許可・産廃許可管理から法令遵守体制まで、建設会社M&Aで失敗しないための実務的なリスク評価方法をお伝えします。
建設会社M&Aにおけるコンプライアンスリスクの現状
指名停止が与える買収価値への影響
入札制度に依存する建設会社にとって、指名停止は事業の生命線を奪うに等しい打撃となります。2026年6月に公正取引委員会が香川県発注の工事の談合を認め(違反した会社は29社・27社に課徴金)、香川県が7月にその27社を8~12か月の指名停止にした例は、この現実を示しています。
指名停止期間中、当該企業は官公庁発注案件への入札参加が不可能になります。民間工事でカバーできる企業もありますが、公共工事の割合が大きい会社ほど、売上への影響が大きくなります。
M&Aの買い手企業にとって、この指名停止状況は買収価値評価に直結します。売却を検討している企業側も、過去5年間の法令違反の有無、コンプライアンス体制の整備状況などを事前に把握しておかなければ、買収交渉の段階で大幅な減額を迫られることになります。
建設業許可と関連許可の二重管理リスク
事業承継やM&Aでしばしば見落とされるのが、建設業許可以外の許可要件です。特に解体工事や外構工事を手がける場合、以下の許可が並行して必要となります。
- 産業廃棄物収集運搬許可(解体工事で発生した廃棄物処理)
- 産業廃棄物処分業許可(中間処理施設を保有する場合)
- 古物商許可(建設資材の再利用・販売を行う場合)
事業承継のときに「建設業許可の更新は済んだ」と安心していても、産業廃棄物の収集運搬業など、関連する許可の有効期限を見落とすおそれがあります。
コンプライアンスデューディリジェンスの実施ステップ

ステップ1:法令遵守体制の全体把握
M&A検討初期段階では、売却検討企業の過去5年間の法令違反履歴、行政指導、改善命令の有無を一覧化します。具体的には以下の項目を確認します。
- 建設業法第31条に基づく報告の求め・立入検査の履歴
- 公正取引委員会からの警告・勧告(談合関連)
- 廃棄物処理法に基づく改善命令・一時停止命令
- 労働基準監督署からの指導・是正勧告(安全衛生関連)
- 建設業法と取適法(旧 下請法)の違反の有無
これらは発注者との契約書や行政機関への届出資料から辿ることができます。特に公共工事の発注者(県庁、市役所など)が公表する「競争参加資格停止情報」は外部からも確認可能な重要な情報源です。
ステップ2:建設業許可と関連許可の有効期限確認
許可の有効期限は必ず複数許可を一覧表にして管理してください。建設業許可は5年ごとの更新が必要ですが、産業廃棄物の収集運搬業の許可は5年ごとの更新、古物商許可は更新が無い(届け出た事項が変われば届出が要る)と、管理のしかたがそれぞれ違います。
事業承継時には以下を確認します。
- 建設業許可の有効期限と更新予定日
- 産業廃棄物収集運搬許可の都道府県別有効期限(複数都道府県で許可を取得している場合が多い)
- 産業廃棄物処分業許可(保有する場合)の有効期限
- 現場ごとに必要な特別な許可(例:水道工事では、水道事業者ごとの指定給水装置工事事業者の指定)
更新を漏らすと、許可は有効期間の満了で失効し、許可が要る工事を請け負えなくなります。
ステップ3:入札制度上の指名資格確認
買い手企業がM&A後に現在の売却企業の入札資格を継承することになる場合、以下を確認します。
- 対象企業が指名停止中でないか
- 経営事項審査(経審)の取得状況
- 資格試験合格の有無(土木施工管理技士など)
特に重要なのは、合併・吸収後に売却企業の入札資格がどうなるかという点です。合併や事業譲渡のときは、前もって許可行政庁の認可を受ければ建設業の許可を引き継げます(建設業法第17条の2)。経審も合併時経審を受ければ、入札できない期間を短くできます。認可の申請は合併などの前に出す必要があるため、早めに確かめます。
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法令遵守体制の統一と強化
M&A完了後、売却企業と買収企業のコンプライアンス体制は統一化が必須です。以下の項目は必ず統合計画に盛り込みます。
- コンプライアンス委員会の設置:毎月1回以上の開催で、法令違反リスクを継続的に監視
- 許可管理システムの導入:全許可をデータベース化し、有効期限を自動通知
- 下請企業の適格性確認:建設業法に基づく契約書作成と支払い管理(建設工事以外の委託は取適法)
- 安全衛生管理体制の統一:現場ごとの安全衛生教育カリキュラムの標準化
例えば、ユニバーサル園芸社は2026年7月1日、全株の取得により有限会社達匠をグループ会社にしたと発表しています(買収の公表の例)。
一般に、グループに入った後の安全衛生や下請けの管理のそろえ方は、買い手が自社で計画して進めます。
許可更新スケジュールの一元管理
事業承継完了直後は、以下を実施します。
- 全許可の有効期限一覧表作成:Excelまたは専門ソフトで管理
- 更新予定日の3ヶ月前アラート:更新申請に必要な書類準備期間を確保
- 更新申請の責任者明確化:誰が何をいつまでに実行するか書面化
- 行政機関への事前相談:許可更新時の予想される課題を事前に相談
許可更新漏れは「不注意」では済まされません。事業承継に伴う管理体制の混乱が原因で許可が失効した場合、買い手企業の信用にも傷が付くことになります。
よくあるM&A後のコンプライアンストラブルと対策
想定の例1:隠ぺいされていた過去の行政指導
買収後、売却企業の従業員から「実は3年前に労働基準監督署から是正勧告を受けていた」という情報が明かされるケースがあります。これは売却前のデューディリジェンスで発見できなかった重大な見落としです。
対策:M&A契約書に「過去5年間の行政指導・改善命令の全件開示」を条項として明記し、虚偽があった場合の損害賠償請求権を確保してください。
想定の例2:事業承継直後の許可更新漏れ
売却企業の事務担当者が退職し、許可更新手続きの引継ぎが不完全なまま有効期限を迎えてしまうケースです。
対策:M&A完了時点で、許可更新の責任者を買い手企業の経営管理部門に明確に移行させ、更新申請は買い手企業が一括実施する体制を構築してください。
よくある質問
Q1. 建設会社のM&Aで指名停止があると買収価値はどのくらい下がりますか?
指名停止期間の受注機会喪失、信用低下による営業損失が発生します。その期間の公共工事の売上見込みが評価に響くため、事業評価額が下がることがあります。正確な減価幅は対象企業の受注パイプライン状況により異なります。
Q2. 買収前に指名停止リスクを調べる方法は?
対象企業が入札に参加している発注機関ごとに、指名停止の公表を確かめてください。経営事項審査(経審)成績表の確認、過去の違反履歴調査も重要。専門の調査機関に依頼することで、隠れた問題の発見率が高まります。
Q3. 指名停止中でも建設会社の買収は進められますか?
法律上は可能ですが、実務上は困難です。指名停止が続く間は売上見込みが立たず、金融機関からの融資も受けにくくなります。停止期間終了後の事業回復見通しを含めた綿密なデューデリジェンスが必要です。
Q4. 建設業許可取り消しと指名停止の違いは何ですか?
指名停止は公共工事入札参加の一時的な禁止で、期間は発注者の措置要領で決まります(多くは1〜12か月程度)。許可取り消しは建設業の営業自体ができなくなる重大な処分で、取消しの理由によっては5年間は許可を受けられません。事業継続可能性が大きく異なります。
Q5. M&A後に指名停止が判明した場合の対応策はありますか?
買収契約の表明保証違反として損害賠償請求が可能です。ただし紛争回避のため、売却前の包括的な指名停止リスク開示が重要。弁護士と協力し、買収契約に許可リスク条項を盛り込むことが予防策です。
まとめ

建設会社M&Aの成功は、売却金額の交渉だけでは決まりません。指名停止や許可取り消しといったコンプライアンスリスクが、買収後の事業価値を大きく左右するため、M&A前のコンプライアンスデューディリジェンスは必須です。
本記事で重要なポイントは以下の3点です。
- 過去5年間の法令違反履歴を徹底確認:指名停止中の企業を買収すれば、その期間中は入札機会を失う
- 建設業許可だけでなく関連許可も一括管理:産廃許可も更新を漏らせば失効し、収集運搬ができなくなる
- 事業承継完了後の許可更新体制を事前に構築:管理体制の混乱が許可更新漏れを招かないよう、責任者と手続きを明文化する
M&A検討中の企業の皆様は、まずは自社(または買収対象企業)の全許可の有効期限一覧表を作成し、現在のコンプライアンス体制に不備がないか確認することから始めましょう。
自社や取引先の許可の業種・許可番号・有効期限は、会社名や許可番号から調べられる建設業許可業者の検索でも確かめられます。
譲り受ける相手の会社の許可(業種・有効期限)は、都道府県別・業種別の建設会社の一覧から会社のページを開いて確かめられます。
出典:建設業法(e-Gov 法令検索)・国土交通省「建設業の許可とは」(確認日 2026-09-28)・ユニバーサル園芸社のお知らせ(達匠のグループ会社化)・公正取引委員会の発表(令和8年6月25日・香川県の土木一式工事)・香川県「建設業者を指名停止」・公正取引委員会「取適法」(確認日 2026-10-19)
この記事は一般的な情報をまとめたものです。法令や制度は変わることがあるため、最新の内容は公表元で確認し、個別の判断は窓口の役所や専門家(行政書士・社会保険労務士・税理士など)に相談してください。
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