公共工事の入札参加資格申請は、建設会社の経営基盤を支える重要な手続きです。しかし、経営事項審査(経審)の点数向上や競争入札での優位性を求めるあまり、虚偽申請に手を出してしまう企業が後を絶ちません。実際、横浜の行政書士が建設会社の申請書類を改ざんして書類送検される事例も発生しており、「代理人に任せているから大丈夫」という油断が致命傷となるケースが増えています。本記事では、実際の不正事例から学ぶべき教訓と、入札参加資格申請の正しい進め方について、建設業許可から加点要件の活用まで、実務的に解説します。
公共工事の入札参加資格申請における虚偽申請の現実
行政書士による改ざん事例から見える危険性
2026年にも各地の行政書士が建設企業の入札参加資格申請書類を改ざんして行政摘発される事例が報告されています。これらのケースに共通する特徴は、経営成績や技術者配置などの項目で実績を過大申告し、虚偽の書類を添付する行為です。
具体的には、以下のような不正が摘発されています。
- 実際には配置していない専門技術者を「配置済み」と記載
- 過去の工事実績を水増しして記載
- 財務諸表の改ざんまたは改竄
- 法令遵守状況について違反事実を隠蔽
経営者が「行政書士に依頼しているから安心」と信じていた場合でも、申請内容に対する最終的な責任は企業側にあります。建設業法では、虚偽申請を行った企業は許可取り消しや指名停止処分を受ける可能性があり、その期間は競争入札から完全に排除されます。
虚偽申請がもたらす法的リスク
入札参加資格申請における虚偽申請の罪状は、多くの場合で詐欺罪または官公庁書類作成罪に問われます。
| リスク項目 | 具体的な影響 |
|———|——–|
| 建設業許可取り消し | すべての公共工事入札から排除 |
| 指名停止処分(5年程度) | 該当自治体の競争入札に参加不可 |
| 罰金・懲役 | 経営者個人の刑事責任 |
| 企業イメージの喪失 | 取引先・下請企業からの信頼失墜 |
| 損害賠償請求 | 不正に落札した工事の発注者から返還請求 |
特に重要なのは、虚偽申請で得た入札資格に基づいて工事受注をした場合、その工事契約そのものが無効となるリスクがあることです。工事を完成させていても、発注者から工事代金の返還を求められるケースが存在します。
経営事項審査(経審)と建設業許可の正しい理解

!A bustling construction scene in Tokyo, Japan featuring cranes and buildings at dusk.
*Photo by sugar jet on Pexels*
入札参加資格申請の2つのステップ
公共工事の入札に参加するためには、建設業許可と経営事項審査(経審)の取得が必須です。 この2つは別の申請手続きであり、それぞれに異なる要件と評価基準があります。
建設業許可
- 建設業法に基づき、都道府県知事または国土交通大臣から取得
- 企業の基本的な信用性と実行能力を証明するもの
- 5年ごとの更新が必要
経営事項審査(経審)
- 公共工事受注希望者が対象
- 経営規模、経営成績、技術力、社会的信用などを数値化
- 総合評定値(P点)が算出され、入札時の加点要素として機能
経営事項審査(経審)の点数向上を目指すのは健全な経営戦略です。しかし、虚偽の決算書提出や架空の技術者配置報告で点数を上げようとするのは、即座に不正行為となります。
経営事項審査(経審)の加点要件と正当な評価向上方法
経営事項審査(経審)において点数を向上させるには、以下の正当な方法があります。
財務面での改善
- 売上高・利益率の実質的な向上(3年平均)
- 自己資本率の改善
- 経営セーフティネット貸付などの利用で資金状況を改善
技術面での強化
- 一級建築士・一級施工管理技士などの資格取得
- 技術者の配置実績の積み重ね
- 施工実績における工事金額・難度の向上
加点要件の活用
- ISO9001(品質)・ISO14001(環境)などの認証取得
- えるぼし認定(女性活躍推進)の取得
- 働き方改革への対応実績
特に、えるぼし認定による加点は、2026年現在、多くの自治体で入札評価に大きな影響を与えています。 これは虚偽申請ではなく、実際に女性社員の配置や勤務環境の改善を行うことで自動的に得られる加点であり、企業体質の根本的な改善にもつながります。
入札参加資格申請における確認・チェック体制の構築
申請前に経営者が確認すべき項目
虚偽申請を防ぐためには、書類作成段階から経営者自身がチェックリストを使って検証する体制が必須です。
以下の項目について、経営者は行政書士や経営コンサルタントからの報告を受けた時点で、自社の実績と照合してください。
確認項目チェックリスト
- [ ] 過去3年間の決算書は税務署申告済みの実績と一致しているか
- [ ] 記載する専門技術者は現在も在籍しているか、資格は有効か
- [ ] 工事実績として記載されている案件は実施証明書が取得可能か
- [ ] 法令遵守状況について、過去5年間の処分・違反はないか
- [ ] 提出する財務諸表は公認会計士またはコンサルタントの確認を受けているか
- [ ] 社会保険の加入状況は最新の加入証明書で確認したか
特に注意すべきは、経営コンサルタントや行政書士が「点数を上げるために」と提案してくる数値の修正です。 「この程度なら大丈夫」という甘い見通しが虚偽申請につながります。疑問に感じたら、複数の専門家に意見を求める習慣をつけてください。
組織内コンプライアンス体制の整備
大手ゼネコンでも、担当者の一存で虚偽申請が行われるケースがあります。これを防ぐには、以下の体制が有効です。
申請書類の社内チェック体制
- 経営管理部門による第一次チェック
- 経営者(代表取締役)による最終確認と署名
- 顧問弁護士または外部監査による事前審査
コンプライアンス研修の実施
- 毎年の法令遵守研修(最低1回)
- 公共工事入札制度に関する教育(特に新任担当者向け)
- 虚偽申請のリスク説明会
告発・相談窓口の設置
- 社内通報制度の構築
- 法務部門への相談体制
申請後の継続的な法令遵守と資格維持

!Builders working on bamboo scaffolding on a colorful building exterior.
*Photo by Warren Yip on Pexels*
資格取得後に気をつけるべき法的義務
入札参加資格を取得した後も、企業には継続的な法令遵守義務があります。以下の変更が生じた場合は、遅滞なく報告が必要です。
報告義務がある主な変更
- 役員の交代
- 本店所在地の変更
- 技術者の退職
- 法令違反や処分の発生
- 経営状況の大幅な悪化
経営事項審査(経審)は通常3年間有効ですが、この期間中に上記の変更が生じた場合、虚偽報告をしていなくても、変更の報告遅れが「事実上の虚偽申請」と指摘されることがあります。
定期的な自己監査と更新準備
入札参加資格の有効期間が終了する半年前には、更新申請に向けた準備を開始してください。その際に、以下の点を確認してください。
- 過去3年間の決算書の正確性
- 技術者配置の実績確認
- 工事実績の証明書取得可能性
- 法令遵守状況の総点検
特に、2026年現在、働き方改革関連法への対応や建設業界での人手不足は、入札評価にも反映されやすい要素となっています。これまで虚偽申請を考えていた企業も、実績に基づいた正当な加点要件(えるぼし認定、安全管理優良企業認定など)の取得に注力することで、より安定的な競争優位を獲得できます。
よくある質問
Q1. 入札参加資格申請で虚偽申請が発覚した場合、どのような罰則がありますか?
虚偽申請は詐欺罪や契約違反に問われ、3年以下の懲役または300万円以下の罰金の対象となります。さらに指名停止期間が2~3年に延長され、経営事項審査の評点が低下するため、大型工事からの排除が長期化します。企業の信用失墜も避けられません。
Q2. 決算書の売上金額を多く記載してしまいました。修正できますか?
申請前なら自主修正が可能です。ただし申請後の発覚は虚偽申請扱いになります。速やかに発注者や自治体に連絡し、修正申請書を提出してください。対応の迅速さが悪質性判断に影響するため、早期の自主申告が重要です。
Q3. 従業員数を少なく申請しても入札に影響しませんか?
入札資格要件に従業員数が含まれる場合、その不足は重大な虚偽申請です。発注者が監査で確認でき、ほぼ100%発覚します。過去の不正事例では即座に指名停止となり、既受注工事の契約解除も生じています。
Q4. 許可を失効したまま申請するとどうなりますか?
建設業許可の失効状態での申請は重大な違法行為です。発見時に虚偽申請として処分されるだけでなく、許可再取得時に厳しく審査され、2年以上許可が下りない可能性があります。許可状況は必ず事前確認してください。
Q5. 代理人が誤った情報で申請してしまいました。責任は誰にありますか?
最終的には申請法人が責任を負います。行政書士などの代理人による誤りでも、法人は事前に情報を正確に提供すべき義務があります。代理人の確認不足だけでは過失責任を逃れられず、法人の指名停止処分が決定されます。
まとめ

!Black and white image of workers on a steel grid at a construction site.
*Photo by Soner Arkan on Pexels*
公共工事の入札参加資格申請における虚偽申請は、見つかった際の企業ダメージが極めて大きい重大な法違反です。建設業許可の取り消し、指名停止処分、経営者個人の刑事責任、そして企業イメージの完全喪失につながります。経営事項審査(経審)の点数向上は重要ですが、それは実績に基づいた正当な方法でのみ実現できるものです。女性活躍推進の「えるぼし認定」や安全管理体制の強化など、実務的で評価につながる施策に投資する方が、長期的には企業価値を高めます。経営者自身が申請内容を確認し、社内コンプライアンス体制を整備することが、リスク回避と企業成長の両立を実現させます。まずは、今年度の申請書類を自社の実績と照合し、虚偽がないかを徹底確認することから始めましょう。

コメント