「経営事項審査(経審)の点数が伸び悩んでいる」「決算書をどう改善すれば点数が上がるのか分からない」――こうした課題を抱える建設会社の経営者・財務担当者は少なくありません。経審の点数はおよそ6割が決算の数字で決まるため、決算前からの準備が公共工事の受注に効きます。本記事では、経審点数を決定する決算書の読み方から、実装可能な財務改善対策、そして決算書以外で加点になる項目(W評点・Z評点)まで、具体的な方法を解説します。経営事項審査で確実に点数を上げたい経営者・財務担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
経営事項審査の仕組みと決算書が果たす役割
経営事項審査とは何か—評価項目の構成
経営事項審査(経審)は、建設業許可を持つ企業が、国や自治体などの公共工事を元請として直接請け負うときに受けなければならない審査です(建設業法第27条の23)。経営規模、経営状況、技術力、社会性などを総合的に評価され、その結果が入札競争力の重要な指標となります。
経営事項審査の評価項目は5つに分かれ、総合評定値(P点)はその重みづけの合計です(P=0.25×X1+0.15×X2+0.20×Y+0.25×Z+0.15×W)。
- 完成工事高(X1評点):業種別の年間平均完成工事高(2年平均か3年平均を選べる)・重み25%
- 自己資本額と利益額(X2評点):自己資本額と平均利益額(利払前税引前償却前利益)・重み15%
- 経営状況(Y評点):決算書から計算する8つの指標・重み20%(登録経営状況分析機関が分析する)
- 技術力(Z評点):資格ごとに点数をつけた技術職員の数と、元請完成工事高・重み25%
- その他の審査項目(W評点):社会保険の加入・建退共・退職金制度・法定外労災・若年技術者の育成・建設キャリアアップシステムの活用・防災協定・ISO など・重み15%
- 総合評定値(P点):上の5つを重みづけして合計した点数
このうち、決算書の数字で決まるのはX1・X2・Y評点で、重みを足すと60%になります。つまり、決算書の内容を改善することが、経営事項審査の点数アップの最短経路なのです。
Y評点を決める8つの財務指標
経営事項審査で評価対象となる決算書の主要財務指標を理解することが、点数改善の第一歩です。Y評点は次の8つの指標から計算します(指標ごとに上限と下限があります)。
- 純支払利息比率:(支払利息−受取利息配当金)÷売上高。小さいほど良い
- 負債回転期間:(流動負債+固定負債)÷1か月あたりの売上高。短いほど良い
- 総資本売上総利益率:売上総利益÷総資本(2期平均)。大きいほど良い
- 売上高経常利益率:経常利益÷売上高。大きいほど良い
- 自己資本対固定資産比率:自己資本÷固定資産。大きいほど良い
- 自己資本比率:自己資本÷総資本。大きいほど良い
- 営業キャッシュフロー:金額(2期平均)。大きいほど良い
- 利益剰余金:金額。大きいほど良い
「流動比率」や「固定資産回転率」は Y評点の指標には入っていません。赤字でも Y評点は計算されますが、経常利益・売上総利益・利益剰余金が下がるため点数は大きく落ちます。黒字化が最優先の課題です。
決算書分析から見える問題パターンと改善策

パターン1:赤字決算から黒字化へ—売上・原価・経費の三角形管理
経営事項審査の点数が伸び悩む最大の原因は赤字決算です。売上の規模が大きくても、赤字が続けば経営は安定しません。赤字状態では経営事項審査の評価が大きく下がり、競争入札でも不利になります。
黒字化を実現するには、単に「売上を増やす」というアプローチではなく、売上・原価・経費の三角形バランスを整えることが重要です。
具体的な対策:
- 原価管理の徹底:工事原価台帳の詳細記録、協力会社への適正価格交渉
- 経費削減:事務作業のデジタル化による人件費圧縮、無駄な外注費の見直し
- 売上構成の見直し:粗利率の高い工事種別への経営資源集約
利益率が1%改善されると、売上1億円の企業では年100万円の利益が増加します。2~3年で累積すれば、自己資本比率の大幅な改善につながり、経営事項審査の評点も確実に上がります。
パターン2:自己資本不足と負債比率の悪化—資金繰り管理の改善
経営事項審査で高い点数を取るために見落とされやすいのが「自己資本の充実」です。負債比率が高い企業は、たとえ売上が大きくても評価は低くなります。
自己資本を増やすには、以下の2つの道があります。
1. 利益の内部留保(配当抑制)
毎年黒字経営を続け、利益をすべて配当に回さず、企業内に資金を留保することです。3年間で連続黒字を達成すれば、自己資本比率は大幅に改善されます。
2. 増資による資金調達
経営者や取引先などが出資して資本金を増やす方法です。自己資本額(X2評点)と自己資本比率(Y評点)がすぐ上がる一方、出資する側の負担が大きい点に留意が必要です。会社が金融機関から借りたお金は負債なので、自己資本は増えません。
具体的な対策:
- 毎月の資金繰り表(キャッシュフロー予測表)を作成し、最大3ヶ月先までの現金残高を把握する
- 不良債権(回収不能な売掛金)がないか定期的に監査する
- 短期借入金を長期借入金に転換し、返済負担を平準化する
パターン3:現金流出と利益のズレ—売掛金・買掛金の回収と支払いの時期
決算書では利益が出ているのに、実際の現金が不足している企業が存在します。これは「売掛金の回収が遅い」「買掛金の支払いが早い」という、売掛金の回収と買掛金の支払いの時期のズレが原因です。
建設業では、工事完成から代金回収まで1~3ヶ月のタイムラグがあるのが通常です。この期間を資金繰り管理で補う必要があります。
具体的な対策:
- 売掛金の早期回収:発注者との契約段階で、請求書到着後30日以内の振込を条件化する
- 赤字工事の極小化:工事着工前に原価見積を厳密に精査し、採算割れ工事を防ぐ
- 協力会社への支払いの期限を守る:下請代金は建設業法の期限(元請が注文者から支払いを受けた日から1か月以内など)までに支払う
これらの対策を実施すれば、Y評点の指標のうち「営業キャッシュフロー」の改善につながります。
決算書以外の加点(W評点・Z評点)とDXの関係
DX導入と経営事項審査の点数の関係
先に結論を書くと、DXツールを入れたこと自体は経審の加点項目にありません。点数に効くのは、事務の手間が減って利益が残ること(X2・Y評点)と、W評点の中で建設キャリアアップシステム(CCUS)の就業履歴を現場でためる取組(2023年1月から加点)です。
建設業DXとは、工事管理、図面共有、協力会社管理などの業務をデジタル化し、事務作業を削減・効率化することです。DX導入により、以下の効果が生まれます。
1. 事務作業時間の削減
残業代や外注費が減れば、売上高経常利益率など Y評点の指標の改善につながります(減る幅は会社ごとに違います)。
2. 協力会社管理の効率化
協力会社の管理をデジタル化しても、それだけでは W評点の加点になりません。W評点で加点になるのは、CCUS で就業履歴をためる措置を現場で実施していることなどです。
3. 災害防止・安全管理の強化
安全管理のデータを見える化しても直接の加点はありません。W評点で見られるのは、雇用保険・健康保険・厚生年金への加入(未加入は減点)、建退共、退職金制度、法定外労災保険、防災協定などです。
W評点で加点になる主な取組
W評点は、次のような取組の有無や状況で加点・減点されます(主なもの)。
- 建設業退職金共済(建退共)・退職一時金制度か企業年金・法定外労災保険:加入していれば加点
- 若年の技術職員の育成と確保・知識や技能を高める取組(CPD など)・ワークライフバランスの認定:状況に応じて加点
- CCUS の就業履歴の蓄積・防災協定・ISO 9001/14001 やエコアクション21の認証:実施や締結があれば加点(営業停止などの処分を受けると減点)
技術者確保と組織体制加点の戦略
経営事項審査のZ評点(技術力)を高めるには、保有資格と技術者の数が重要です。Z評点は、資格ごとの点数(例:1級施工管理技士は5点、2級は2点)をつけた技術職員の数と、元請完成工事高で決まります。若手技術者の育成や研修の受講は、Z評点ではなく W評点の項目です。
具体的な対策:
- 研修の記録:技術者の CPD 単位や技能者の能力評価の取得(W評点の「知識及び技術又は技能の向上」)
- 若手社員の資格取得支援:1級施工管理技士、2級建設機械施工技士などの資格取得助成金制度の導入
- 複数業種の資格:1人の技術職員は2業種まで数えられるので、複数業種の資格を持つ人が増えると業種ごとの Z評点に効く
2026年経営事項審査対策の実行計画
今すぐできる3つのアクション
経営事項審査の点数改善は、決して一朝一夕に成し遂げられるものではありません。経審は決算日を基準日として受けるので、次の決算日までに以下の3つのアクションを進めましょう。
アクション1:決算書の現状診断(決算の3〜6か月前)
現在の決算書から、上記で解説した Y評点の8つの指標と X2評点(自己資本額・利益額)を計算し、業界平均と比較します。特に赤字企業は、利益率を最低2%まで改善することを目標に掲げましょう。
アクション2:資金繰り表の作成と月次管理(毎月)
毎月の売上・経費・現金収支を記録し、3ヶ月先までの現金残高を予測する資金繰り表を導入します。これにより、営業キャッシュフローの改善と、負債の圧縮(負債回転期間)につなげます。
アクション3:W評点の取組の確認(決算日まで)
建退共・退職金制度・法定外労災保険への加入、CCUS の就業履歴の蓄積、防災協定、CPD の記録など、W評点の項目のうちまだ取り組んでいないものを洗い出します。評価されるのは基準日(決算日)の時点の状況です。
経営事項審査申請前の最終チェックリスト
次の決算後の経営事項審査の申請を見据え、以下のチェックリストを活用して準備を進めましょう。
- [ ] 直近の決算書から Y評点の8つの指標を計算し、改善目標を設定したか
- [ ] 月次資金繰り表の作成体制が整備されているか
- [ ] 赤字決算の場合、黒字化の具体的なアクションプランが立案されたか
- [ ] 不良債権がないか、売掛金・買掛金の回収・支払いサイトを最適化したか
- [ ] 建退共・退職金制度・法定外労災保険に加入しているか
- [ ] CCUS で就業履歴をためる措置を現場で実施しているか
- [ ] 若手技術者の資格取得支援プログラムが整備されているか
よくある質問
Q1. 経営事項審査の点数計算で最も重要な決算書項目は何ですか?
決算書の数字は X1(完成工事高)・X2(自己資本額と利益額)・Y(8つの指標)に使われ、重みを足すと60%です。Y評点では売上高経常利益率・総資本売上総利益率・自己資本比率・営業キャッシュフロー・利益剰余金などが効きます。
Q2. 決算書の売上高経常利益率を上げるには具体的に何をすべきですか?
売上原価率の低減と販管費の効率化が重要です。具体的には、下請単価の適正化、機械装置の稼働率向上、事務所経費削減などが挙げられます。前年度比で継続的改善を心がけましょう。
Q3. 自己資本比率を改善するには2026年までに何をすべきですか?
利益剰余金の積み増しが最適です。毎年度の利益を配当せず内部留保することで、自己資本が増加します。増資でも自己資本は増えますが、借入れでは増えません。
Q4. 経営事項審査で経営規模評価点(X点)と経営状況分析点(Y点)の配点比率は?
総合評定値(P点)の中の重みは全国共通で、X1が25%、X2が15%、Yが20%、Zが25%、Wが15%です。ただし発注者は P点に独自の項目(主観点)を足して格付けをすることがあるので、入札に参加する発注者の基準も確かめましょう。
Q5. 決算書で経営事項審査の点数が下がらないようにする対策は?
赤字決算を避けることが最優先です。赤字が続くと自己資本が減少し、経営状況分析点が大幅に低下します。利益確保が困難な場合は、決算前に税理士に相談し、適切な決算対策を検討しましょう。
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出典と参考(2026年10月1日に確認)
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