「受注できても利益が残らない」「材料費の上昇を見積もりに転嫁しようとすると発注者に断られる」——建設業経営者から聞こえるこの悩みを、国土交通省の「建設工事費デフレーター」という統計データが数字で裏付けています。このデータを知っているかどうかで、発注者との価格交渉力が大きく変わります。本記事で具体的な活用方法を解説します。
建設工事費デフレーターとは?国交省が公表する原価指数

「建設工事費デフレーター」は国土交通省が作成・公表している統計で、建設工事のコスト変動を指数化したものです。基準の年度(いまの公表は2020年度=100)と比べて工事費が何%上がったかを、木造住宅・鉄骨造・鉄筋コンクリート造・土木といった工事の種類ごとに確かめられます。
国土交通省の建設工事費デフレーターの2026年6月30日付の年度別の値(2020年度基準)では、2025年度(暫定)が鉄骨造の住宅で124.3、木造住宅で122.3、建設総合で121.9と、2020年度から約21〜24%の工事費の上昇が公式統計で確認されています。
📊 参照データ:国土交通省「建設工事費デフレーター」
👉 建設工事費デフレーター(e-Stat 政府統計総合窓口)
2019〜2025年度のデフレーター推移:工事種別で見る上昇の軌跡
以下は国土交通省が公表している「建設工事費デフレーター」(2020年度=100の基準・2026年6月30日付)の年度別の推移です。2023〜2025年度の値は暫定値です。
| 年度 | 建設総合 | 木造住宅 | 鉄骨造(住宅) | 鉄筋コンクリート造(住宅) | 鉄骨造(非住宅) | 土木総合 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2019年度 | 100.0 | 100.1 | 100.2 | 100.2 | 99.9 | 100.1 |
| 2020年度(基準) | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
| 2021年度 | 105.0 | 110.3 | 108.3 | 105.2 | 103.5 | 103.7 |
| 2022年度 | 111.3 | 116.7 | 116.4 | 111.7 | 109.8 | 109.4 |
| 2023年度(暫定) | 113.7 | 114.8 | 117.0 | 113.9 | 113.4 | 112.6 |
| 2024年度(暫定) | 118.7 | 118.8 | 121.4 | 118.9 | 118.8 | 118.0 |
| 2025年度(暫定) | 121.9 | 122.3 | 124.3 | 122.1 | 121.8 | 121.0 |
- 2021年度の急騰は、ウッドショック(木材価格の世界的高騰)と鉄鋼・銅価格上昇が重なった時期です
- 2022年度は円安・エネルギー高騰が加速し、木造住宅は116.7、鉄骨造の住宅は116.4まで上がりました(木造住宅は2023年度に114.8へいったん下がっています)
- 2025年度(暫定)も上昇が続いており、2020年度と比べて工事コストは約21〜24%高い水準にあります(国土交通省「建設工事費デフレーター」)
工事種別で見るコスト上昇の実態:何が最も高騰しているか

デフレーターを工事種別に見ると、上昇幅に差があります。経営者として把握しておくべき主要な傾向は以下の通りです。
- 木造住宅・木工事:ウッドショック以降の木材価格高騰が指数に反映。2020年度比で+22.3%(2025年度・暫定:122.3)
- 鉄骨造・RC造:鉄鋼材料・セメントの上昇が継続。鉄骨造の住宅は2020年度比で+24.3%(2025年度・暫定:124.3)とこの表で最大の上昇幅。鉄筋コンクリート造の住宅は+22.1%
- 鉄骨造の非住宅(事務所・工場・倉庫など):鉄鋼材料に加え、電気資材・配管材の上昇も重なる。2020年度比で+21.8%(2025年度・暫定:121.8)
- 土木工事:労務費比率が高く、賃金の引き上げの影響を直接受ける。2020年度比で+21.0%(2025年度・暫定:121.0)
📊 参照データ:国土交通省 建設業関係統計一覧
👉 建設業関係統計データ(国土交通省)
デフレーターを使った発注者への価格交渉術

「政府の公式統計データ」を根拠に示すことで、価格交渉の説得力が大幅に増します。具体的な活用手順は以下の通りです。
- 過去の見積り時と現在の指数差を計算する:「前回受注時(例:2022年度)から今回までに指数が約1割上がっている=工事費が約10%上がったことを公式統計で示せる」と伝える
- 工事種別の指数を使い分ける:自社が主に施工する工事種別の指数を引用する。木造住宅なら木造住宅指数、土木なら土木総合の指数を使う
- 資料として印刷・提示する:国交省のウェブページを印刷して持参することで「政府の統計が示す値上がり」として発注者に理解を求める
発注者への価格交渉に使える「受注時期別 コスト上昇換算早見表」
過去に受注した案件と現在の相場を比較するための換算参考表です。「○年に受注した案件と同規模なら、今は約○%高くなっている」という形で活用できます。以下は鉄骨造の非住宅(事務所・工場・倉庫など)を例にした換算表です(工種が異なる場合は上記の推移表で読み替えてください)。
| 受注(見積り)時期 | 当時の指数 | 2025年度指数(暫定) | 上昇率(概算) | 交渉での説明例 |
|---|---|---|---|---|
| 2020年度頃 | 100.0 | 121.8 | +21.8% | 「2020年度比で約22%のコスト上昇が国交省統計で確認されています」 |
| 2021年度頃 | 103.5 | 121.8 | +17.7% | 「2021年度比で約18%、工事費が上昇しています」 |
| 2022年度頃 | 109.8 | 121.8 | +10.9% | 「2022年度比で約11%、工事費が上昇しています」 |
| 2023年度頃 | 113.4 | 121.8 | +7.4% | 「2023年度比で約7%上昇し、上昇はまだ続いています」 |
| 2024年度頃 | 118.8 | 121.8 | +2.5% | 「前年度比で約2.5%上昇。累積では2020年度比+21.8%です」 |
価格交渉トークスクリプト例
場面:2020年度に受注した既存顧客から、同規模の鉄骨造の事務所の案件を打診された場合
「前回の○○様の案件は2020年にご依頼いただきましたが、国土交通省が公表している建設工事費デフレーターという公式統計を見ると、鉄骨造(非住宅)の工事コスト指数は2020年度を100とすると2025年度(暫定)には121.8まで上昇しております。これは約22%のコスト増を意味します。資材費・労務費ともに構造的な上昇が続いているため、前回の見積り金額にそのまま近い水準でご対応することが難しい状況です。統計データをお持ちしますので、一度ご確認いただければ幸いです。」
ポイント:「私が言っているのではなく、政府の公式統計が示している」という姿勢が、発注者の感情的な反発を抑えます。
コスト管理の実践:見積り精度を上げる3つのポイント
価格転嫁交渉と並行して、社内の見積り精度を上げることも重要です。
- 資材単価の月次更新:仕入れ先からの見積書を月1回更新し、見積もりDBに反映させる
- 労務単価の実態把握:国交省「公共工事設計労務単価」も参考指標として活用する。2026年3月から適用の単価は全国全職種の単純平均で前年度比+4.5%・加重平均 25,834円(国土交通省 2026年2月発表)。👉 公共工事設計労務単価(国交省)
- 過去案件の原価実績DB化:類似工事の実績原価を蓄積し、次回見積もりの精度向上に使う
| 工事種別 | 指数(2025年度・暫定) | 主なコスト上昇要因 |
|---|---|---|
| 木造住宅 | 122.3(2020年度比+22.3%) | 木材価格・大工手間賃 |
| 鉄骨造(住宅) | 124.3(2020年度比+24.3%) | 鉄鋼材料・製作費 |
| 鉄筋コンクリート造(住宅) | 122.1(2020年度比+22.1%) | セメント・型枠・鉄筋 |
| 鉄骨造(非住宅) | 121.8(2020年度比+21.8%) | 鉄鋼材料・電気資材・配管材 |
| 土木総合 | 121.0(2020年度比+21.0%) | 労務費・重機燃料費 |
2026年後半〜2027年の工事費動向:経営者が今知っておくべきこと
執筆時点で、建設工事費は引き続き高止まり傾向が続いています。以下の要因が今後の工事費に影響を与える可能性があります。
- 能登半島復興需要の本格化:2024年の能登半島地震からの復旧・復興工事が2026年以降に本格化する見通しで、北陸を中心に技能者・重機の需給が逼迫しやすい状況です
- インフラ老朽化更新需要:全国の橋梁・トンネルの法定点検・更新工事が集中する時期に入っており、土木工事の労務需要を押し上げています
- 公共工事設計労務単価の継続改定:国交省は2026年3月から適用の単価で全国全職種の単純平均+4.5%の引き上げを実施しました(14年連続の上昇)。👉 公共工事設計労務単価(国交省)
こうした状況を踏まえ、経営者として今とるべきアクションは次の3点です。
- 受注案件ごとに資材単価の有効期限を設定する(3ヶ月以内の見積もり有効期限を明記)
- デフレーター指数を次回の見積書に「参考資料として添付」することを習慣化する
- 同業者との情報交換で地域別の労務費実勢を定期的に把握する
工事費の上昇が「一時的なもの」から「構造的なもの」に変わっていることを、公式統計を示しながら発注者に丁寧に伝えることが、今後の価格交渉の鍵になります。
まとめ:政府統計を武器に価格交渉に臨む
- 国交省「建設工事費デフレーター」は2020年度比で約21〜24%(鉄骨造の住宅:124.3)のコスト上昇を公式に示している(2025年度・暫定値)
- 工事の種類(木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造・土木)ごとに上昇幅が異なるため、自社施工種別の数値で換算する
- 受注時期別の換算早見表を使えば、「○%上がった」という具体的な根拠を発注者にわかりやすく示せる
- 2026年後半も高止まりが続く見通し。見積有効期限の設定と定期的な単価更新が不可欠
- 交渉時に政府統計を根拠として提示することで、価格転嫁の説得力が大幅に増す
よくある質問
Q: 建設工事費デフレーターはどこで確認できますか?
e-Stat(政府統計総合窓口)から確認できます。最新版のデータをダウンロードでき、工事種別・年度別の指数を確認できます。建設工事費デフレーター(e-Stat)からアクセスできます。
Q: 建設工事費デフレーターを発注者への価格交渉に使えますか?
はい、有効です。「政府公式統計で工事費が○%上昇している」という客観的な根拠として提示できます。過去の見積り時の指数と現在の指数を比較し、上昇率を計算して発注者に説明すると説得力が増します。
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