「熱中症対策は義務化されたと聞いたが、具体的に何をすれば法令違反にならないのか」——建設業の経営者から、こうした質問が増えている。厚生労働省が公表した速報値によれば、2025年の職場における熱中症死傷者数は1,681人と統計開始(2005年)以来の過去最多を記録した。業種別に見ると、建設業は死傷者数・死亡者数ともに上位を占め続けている。「去年も何もなかったから大丈夫」という感覚は最も危険だ。本記事では、この統計データをもとに、建設業経営者が2026年夏に必ず実施すべき熱中症対策3項目と整備すべき書類を解説する。
厚労省が公表:2025年の職場熱中症死傷者1,681人の詳細データ

厚生労働省「2025年(令和7年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(令和7年12月末速報値)」によれば、2025年の死傷者数は1,681人(うち死亡者31人)。2024年確定値(1,257人)から約34%増加し、過去最多を更新した。
出典・参考URL:
- 厚労省PDF(速報値):https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001676130.pdf
- JILPT解説本文:https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2025/07/kokunai_01.html
- JILPT推移グラフ画像:https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2025/07/img/kokunai_02.png
- 厚労省熱中症ポータル:https://neccyusho.mhlw.go.jp/
- 2025年死傷者数(速報値):1,681人——統計開始以来の過去最多
- 2024年確定値:1,257人(前年比+151人、約14%増)
- 2025年死亡者数:31人
- 建設業・製造業の合計:死傷者数の約4割、死亡者数の約5〜6割を占める
この数値は「天候が悪かった年の話」ではない。2025年の猛暑指数は確かに記録的だったが、死傷者数の増加は管理体制の不備が大きく影響している。国全体で死傷者が増えている中、自社で発生すれば労災・行政処分・損害賠償が一度に降りかかる。
建設業が危険な理由——業種別データと季節的ピーク

なぜ建設業で熱中症が多発するのか。統計データと現場の実態から、主な理由は4点だ。
- 屋外作業が基本:直射日光を避けられない環境で長時間作業する。気温35℃の日に太陽に照らされたアスファルト上の体感温度は50℃近くになる場合がある
- 重労働・高体内発熱:土木・鉄筋・解体等の重作業は体内発熱量が大きく、体温が上がりやすい
- 水分補給が困難な現場構造:作業工程・人員体制によっては、こまめな休憩を取りにくい現場が多い
- 多重下請構造:元請からの安全管理指示が末端の下請作業員まで届きにくい構造がある
統計的なピークは7月・8月だが、6月第2週から急増が始まる。特に梅雨の晴れ間は「湿度が高い状態で気温が急上昇する」ため、体感温度は真夏並みになることが多い。梅雨だから安全、という油断が最初の事故につながる。
2026年夏に建設業経営者が必ず動くべき熱中症対策3項目

対策①:WBGT測定体制の確立(法的義務)
2025年6月から改正労働安全衛生規則により、WBGT(湿球黒球温度)の把握が全業種で義務化された。建設現場では、スマートフォン連動型WBGT計(3,000〜5,000円程度)を各現場に配置し、午前・午後各1回以上の測定と記録が必要だ。WBGT値の目安:25℃以上で注意、28℃以上で警戒、31℃以上で厳重警戒、33℃以上で危険(屋外作業原則中止)。測定記録は3年間保存が義務付けられている。
対策②:熱中症予防管理者の配置と安全教育実施(法的義務)
作業現場ごとに熱中症予防管理者を配置し、作業員への周知・実施確認が義務付けられた。合わせて、夏季前の安全衛生教育(労働安全衛生法第59条)を年1回以上実施し、受講者の署名・受講日・教育内容を記録・保存する。労働基準監督署の調査時に「教育を実施していた記録がない」と指摘されるケースが増えているため、書面整備は必須だ。
対策③:緊急連絡体制・応急処置マニュアルの整備(法的義務)
熱中症発症時の対応体制を文書化し、現場事務所に掲示する。「誰が119番するか」「救急車が来るまでの応急処置は誰が担うか」「現場の住所・最寄りの病院はどこか」を事前に共有しておく。発症後の記録(発生日時・症状・処置・搬送先)も保存する義務がある。休業4日以上の場合は、所轄労働基準監督署への労働者死傷病報告(様式第23号)の提出が必要だ。
建設業経営者が確認すべき熱中症対策チェックリスト12項目
| 確認項目 | 法的根拠 | 実施状況 |
|---|---|---|
| WBGT計の設置(各現場1台以上) | 改正労働安全衛生規則 | ✓ / 未 |
| WBGT測定・記録(日2回、3年保存) | 改正労働安全衛生規則 | ✓ / 未 |
| 作業中止基準値の社内規程化(文書) | 安衛法第20条 | ✓ / 未 |
| 熱中症予防管理者の配置(現場ごと) | 改正労働安全衛生規則 | ✓ / 未 |
| 夏季前の安全衛生教育(記録・署名付き) | 安衛法第59条 | ✓ / 未 |
| 冷水・経口補水液の現場備蓄 | 指導推奨(指導対象) | ✓ / 未 |
| クーリングシェルター(日陰・休憩スペース)設置 | 改正労働安全衛生規則 | ✓ / 未 |
| 空調服・冷却グッズ等の支給 | 指導推奨 | ✓ / 未 |
| 毎朝の体調確認記録 | 指導推奨(労基署指導対象) | ✓ / 未 |
| 緊急連絡体制の文書化・掲示 | 改正労働安全衛生規則 | ✓ / 未 |
| 発症時記録・報告体制の整備 | 安衛法(労働災害記録義務) | ✓ / 未 |
| 下請業者への安全管理指示・確認 | 建設業法・安衛法 | ✓ / 未 |
まとめ:熱中症対策は経営リスク管理の一環
- 2025年の職場熱中症死傷者は1,681人(過去最多)。建設業は業種別ワースト上位が続いている
- 2025年6月から義務化されたWBGT測定・管理者配置・緊急体制整備の3項目は即時対応が必要。未対応は行政指導・罰則リスクあり
- 記録は3年間保存義務あり。書類が整備されていないと、調査時に「管理していなかった」と判断される
次のアクション:①上記チェックリストで自社の未実施項目を洗い出す ②WBGT計を各現場に配置し、測定記録シートの運用を今日から始める
よくある質問
Q: 熱中症対策の義務化で建設業経営者が必ずやるべきことは何ですか?
2025年6月施行の改正労働安全衛生規則により、①WBGT(湿球黒球温度)の測定・記録(3年保存)、②熱中症予防管理者の配置、③緊急連絡体制・応急処置マニュアルの文書化・掲示、の3点が義務化されました。違反した場合、労働基準監督署の是正勧告・罰則の対象となります。
Q: 2025年の職場熱中症死傷者数が過去最多となった主な原因は何ですか?
2025年の夏は記録的な猛暑が続いたことが直接的な原因ですが、厚労省データによると管理体制の不備(WBGTの未計測、教育未実施、緊急体制なし)も大きな要因です。建設業・製造業で全体の約4割を占めており、屋外重労働・多重下請構造という業種特性が被害を拡大させています。

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