「塩ビ管がまた値上がりした」「断熱材の入荷が遅れている」「塗料の見積もりが先月と全然違う」——こうした声は2024年以降、建設業の現場で頻繁に聞かれるようになりました。この背景にあるのが「ナフサ不足」という、建設業との意外な接点です。石油化学原料の需給変化が、なぜ現場の資材コストに直結するのか。その仕組みと経営者が取るべき対策を解説します。
ナフサとは何か——建設業との知られざる関係
ナフサ(naphtha)とは、原油を精製する際に生成される揮発性の液体炭化水素です。石油化学工業の「基幹原料」として、エチレン・プロピレン・ブタジエンなどの素材に加工され、さまざまなプラスチック・合成樹脂・溶剤の製造に使われます。
建設業に直接関係するナフサ由来の主な製品は次のとおりです。
- 塩化ビニル樹脂(PVC):給水管・排水管・電線管など「塩ビ管」全般の原料。新築・改修を問わず配管工事のほぼすべてで使用する。
- 発泡スチロール・スタイロフォーム系断熱材:XPS(押出法ポリスチレンフォーム)・EPS(ビーズ法)ともにナフサ由来のポリスチレンが原料。住宅の床・壁断熱に多用。
- 建築用塗料・接着剤・シーリング材:溶剤型塗料の多くはナフサ系溶剤を使用。シーリング材(コーキング)もナフサ系ポリウレタン・シリコンが原料に含まれる。
- 防水シート・養生フィルム:ポリエチレン・ポリプロピレン製品もナフサが出発原料。現場養生から防水施工まで幅広く使用。
2026年、ナフサが不足する3つの理由【最新動向】
- 中東産原油の供給不安定化:OPECプラスによる生産調整と中東の地政学リスクにより、原油の安定調達が困難な状態が続いています。原油の精製量が抑制されると、その副産物であるナフサも連動して不足します。
- 日本国内の石油化学設備の老朽化・再編:国内大手石油化学メーカーは2020年代前半にナフサ分解設備(エチレンプラント)の統廃合・集約を進めており、国内供給余力が低下しています。国際競争力の維持のために設備を絞った結果、需要増には対応しにくい構造になっています。
- EV・再生可能エネルギー需要の増加による石化製品需要の上昇:太陽光パネルの封止材・EV車載部品のプラスチック部品など、脱炭素関連製品でもナフサ系素材の需要が増加しています。建設資材以外の用途がナフサを奪い合う構造が生まれています。
塩ビ管・断熱材・塗料の価格はどこまで上がっているか【2026年現在】
塩ビ管(給排水配管)
VU管・VP管を代表とする塩ビ製給排水配管は、2021年比で25〜35%の価格上昇が報告されています。特に内径の大きい幹線管(150mm以上)では、素材単価の上昇に加えて製造エネルギーコストも乗り、値上がり幅が大きくなっています。改修工事でまとまった数量が必要な案件では、見積もり後の価格変動が工事利益を大きく侵食するリスクがあります。
断熱材(スタイロフォーム・グラスウール系)
XPS系断熱材(スタイロフォームなど)は2021年比で30〜40%の上昇。グラスウールはガラス繊維が原料のため石化製品依存度は低いものの、接着剤・カバー材でナフサ系樹脂を使うため間接的な影響を受けています。2025〜2026年に国の省エネ基準強化(ZEH基準の拡充)に伴う断熱材需要の増大も、価格高止まりに拍車をかけています。
塗料・防水材・シーリング材
外壁塗料・防水塗膜材は2021年比で20〜30%の価格上昇。シーリング材(コーキング)は材料費に加えてカートリッジ容器(プラスチック製)のコストも上昇しており、二重の打撃を受けています。大規模改修工事や外装改修を多く手掛ける業者は、塗料費・防水費の単価を従来の積算単価で計上すると赤字になるリスクが高まっています。
2026年5月——ナフサ不足が「実被害」を引き起こした
2025年以前は「ナフサ不足は価格を上げる」という段階でしたが、2026年5月以降は「実際の被害」が報告されるフェーズに突入しています。
- 建築資材卸(株)高木(神奈川)破産申請(2026年5月公表):ナフサ不足による仕入れコスト急騰を直接原因として破産申請。建材卸として業界初の「ナフサ起因破産」として公式に記録された事例(出典:東京商工リサーチ 2026/5/28)
- 九州の建設現場で工事中断が相次ぐ(2026年5月):塩ビ管・断熱材の入荷遅延により、着工中の工事が中断・工期延長になるケースが多数発生している(出典:西日本新聞 2026/5/24)
- トルエン・キシレン生産低下:ナフサ由来のトルエンは2026年4月時点で前年比-42%、キシレンは-37%の生産低下。塗料・接着剤・防水材などの製造に使用される溶剤系原料の供給が急減している
これらの事例が示すのは、「価格が上がる」という段階から「資材が手に入らなくなる」という段階への転換です。建設現場の原価管理では、価格変動だけでなく「入手可能かどうか」という調達リスク管理が不可欠になっています。
経営者が今すぐ取れる石油系建材の調達対策3選
- 国産材・代替材への切り替えを検討する:塩ビ管については、一部の配管用途でステンレス管・鋼管・ポリエチレン管(PE管)への代替が可能です。断熱材はロックウール・セルロースファイバーなどの非石化系素材の採用を検討することで、ナフサ価格変動のリスクを下げられます。
- 数量確定後すぐ発注・在庫化する:ナフサ価格は原油先物市場と連動して変動が速く、見積もり提出から工事着工まで2〜3ヶ月空く場合は着工後の価格変動リスクが高い。確定数量の60〜70%を受注時に先行発注・仮入庫することで、価格ロックが可能です。
- 見積書に「石油系建材変動条項」を明記する:塩ビ管・防水材・塗料を含む工事の見積書には「上記金額は見積提出日のナフサ/原油価格を基準とし、着工時点で10%以上の価格変動が生じた場合は協議により調整します」という条項を追加することを強くお勧めします。この一文が後の交渉の土台になります。
まとめ——ナフサリスクは「見積もり時点」で管理する
| 建材カテゴリ | ナフサ依存度 | 2026年の価格状況 | 代替・対策 |
|---|---|---|---|
| 塩ビ管(給排水) | 高(主原料) | 2021年比+25〜35% | PE管・鋼管への代替・先行発注 |
| XPS断熱材 | 高(主原料) | 2021年比+30〜40% | ロックウール・セルロースへ転換 |
| 外壁塗料・防水材 | 中〜高(溶剤系) | 2021年比+20〜30% | 水性塗料・変動条項の明記 |
| シーリング材 | 中(原料+容器) | 2021年比+15〜25% | 二液型の採用・ロット購入 |
- ナフサは建設業が直接調達する原料ではないが、塩ビ管・断熱材・塗料など日常的に使う建材の原料として深く関与しており、ナフサ価格の変動は即座に仕入れコストに反映されます。
- 2026年現在のナフサ不足は中東情勢・国内設備の老朽化・脱炭素需要の増加という3要因が重なっており、短期解消は見込みにくい状況です。
- 対策の核心は「代替材の採用」「先行発注」「見積書への変動条項明記」の3点です。特に変動条項の明記は、今日から全工事見積もりに追加できる即効策です。
よくある質問
Q: ナフサ価格の見通しはどうなっているか?2026年に落ち着く可能性はあるか?
ナフサ価格は原油価格・中東情勢・アジアの石化需要と連動しており、2026年中に大幅に下落するシナリオは想定しにくい状況です。原油価格が安定した場合でも、国内石化設備の供給余力が限られているため、国内調達価格は高止まりが続く見通しです。建設業の資金計画では「ナフサ系建材は高値が続く前提」で原価を組むことをお勧めします。
Q: 塩ビ管以外にナフサ不足の影響を受けている建材はあるか?
建設業に関係するナフサ由来建材は多岐にわたります。具体的には、養生フィルム・ビニルシート・接着剤・発泡ウレタン吹き付け断熱材・一部の外装材(ビニルサイディング)などです。また電気工事で使用するケーブル被覆(塩ビ)も同じく影響を受けています。工事原価の洗い出しで「プラスチック・樹脂系の製品はすべてナフサ関連」と考えると漏れなく対応できます。

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