子どもや親族に会社を引き継がせようとしたとき、「自社株の評価が高すぎて相続税・贈与税が払えない」という問題に直面する建設会社の経営者は少なくありません。建設業は設備・機械・土地等の固定資産を多く持つ業種であり、純資産が積み上がっていると自社株評価が高くなりやすい傾向があります。本記事では、承継前に取り組むべき株価対策3つと、事業承継税制の活用を実務的な観点から解説します。
非上場株式の評価方法——建設業に多い評価パターン
非上場の中小建設会社の株式は、国税庁の「財産評価基本通達」に基づき評価されます。会社規模によって適用される評価方式が異なります。
| 会社規模 | 適用される評価方式 | 評価の傾向 |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式(低い方を選択) | 株価が低くなりやすい |
| 中会社 | 類似業種比準方式+純資産価額方式の折衷 | 中程度 |
| 小会社 | 純資産価額方式(または折衷方式の低い方) | 株価が高くなりやすい |
建設業の中小企業の多くは「小会社〜中会社」に該当し、純資産価額方式(会社の純資産をそのまま株価に反映する方法)が適用されます。設備・機械・不動産等の資産が多い建設会社では、この方式で株価が高く算定されることが多いです。
方法1:役員退職金の支給で利益・純資産を圧縮する

オーナー経営者が代表を退任するタイミングに適正な役員退職金を支給することで、会社の利益・純資産を一時的に圧縮し、株価評価を下げる効果が期待できます。
役員退職金の適正額の目安
役員退職金の税務上の適正額は「最終月額報酬×役員在任年数×功績倍率」で算定します。功績倍率は代表取締役で通常2.0〜3.0の範囲が目安とされていますが、会社の規模・業績・在任年数等により異なります。過大な退職金は損金不算入になる可能性があるため、事前に税理士と金額の検討・議事録の整備を必ず行ってください。
株価評価への影響
退職金を支給した事業年度は会社の利益が減少し、翌期以降は純資産も減少します。類似業種比準方式では「1株あたり利益」が評価要素の一つになるため、退職金支給年度に株価評価が下がる効果があります。
方法2:含み益のある資産の整理で純資産評価を下げる
純資産価額方式では、会社が保有する資産を相続税評価額で評価します。帳簿価額より相続税評価額が高い「含み益資産」があると、株価評価が押し上げられます。
含み益が生じやすい資産
- 土地・不動産:路線価・倍率方式で評価されるため、取得価額より高くなることが多い
- 有価証券:株式・投資信託等の時価が帳簿価額を上回っている場合
- 積み上がった現預金:使途のない現預金は純資産を押し上げる
対応策の例
- 事業に不要な土地・遊休不動産の売却または整理
- 役員退職金・設備投資等で現預金を合理的な範囲で使用する
- 含み益のある有価証券の一部を計画的に売却・換金する
ただし資産売却は譲渡所得税・法人税等の影響も生じるため、株価対策単体で判断せず、税理士と総合的な試算を行ってから実施してください。
方法3:事業承継税制(特例措置)で贈与税・相続税を猶予する

自社株の評価を下げる対策が間に合わない場合や、評価額を下げても税負担が重い場合は、事業承継税制の特例措置の活用が有効です。
制度の概要
非上場株式等の贈与・相続について、一定の要件を満たした場合に贈与税・相続税の全額(または一部)を猶予・免除する制度です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 非上場株式等の贈与・相続 |
| 猶予割合 | 特例措置:贈与税100%・相続税100%を猶予 |
| 特例承継計画の提出期限 | 2026年3月31日まで(都道府県知事へ提出) |
| 贈与・相続の実行期限 | 2028年12月31日まで |
| 主な要件 | 先代経営者の代表退任・後継者の代表就任・5年間の雇用維持(8割以上)等 |
特例措置の注意点
- 特例承継計画の提出が先決。計画を出していなければ特例措置は使えない。
- 猶予取消し要件(後継者が代表を離任・株式を売却等)に該当すると、猶予が取消しになり全額納付が必要になる場合がある。
- 制度の適用には経営承継円滑化法の認定申請等の手続きが必要なため、早めに税理士・行政書士に相談することが不可欠。
株価対策に必要な準備期間の目安

いずれの対策も、実施するタイミングと評価時点のズレを考慮して計画する必要があります。
| 対策 | 効果が現れるまでの期間 | 着手すべきタイミング |
|---|---|---|
| 役員退職金の支給 | 支給した事業年度の株価に反映 | 株式移転の1〜2事業年度前 |
| 資産の整理・圧縮 | 実施した事業年度末の純資産に反映 | 株式移転の1〜3年前 |
| 事業承継税制(特例措置) | 計画提出後、認定申請に2〜3ヶ月 | 2026年3月31日までに計画提出 |
→ 親族内承継・M&A双方の選択肢の比較については「建設会社の後継者不在問題——第三者承継(M&A)を選ぶ前に確認すべき5項目」も参照してください。
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まとめ
- 建設業の中小企業は純資産が積み上がりやすく、自社株評価が高くなりやすい。対策を打たずに株式を移転すると相続税・贈与税の負担が後継者に重くのしかかる。
- 役員退職金の活用・資産圧縮・事業承継税制の3手法を組み合わせることで株価対策の効果が高まる。いずれも実施タイミングと評価時点の関係が重要で、計画的な実行が必要。
- 事業承継税制の特例措置は2026年3月31日が特例承継計画の提出期限。今から動き始めても十分間に合うが、税理士への相談を今期中に開始することを推奨する。
今すぐできる次のアクション
- 顧問税理士に直近の決算書を基にした自社株評価額の試算を依頼する。評価額が把握できれば、3つの対策のうちどれが有効かを判断できます。
- 事業承継税制の特例措置を検討するなら、都道府県の認定経営革新等支援機関(税理士・商工会等)に相談して特例承継計画の作成を開始する。提出期限(2026年3月31日)まで時間があるうちに着手してください。

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