「受注はあるのに利益が出ない」「赤字工事が続いて資金繰りが苦しい」——資材高騰が長期化する中、こうした経営危機の訴えが建設業界全体に広がっています。国土交通省の調査では、資材高騰を受注価格に転嫁できていないと回答した建設業者が6割超に上ります。利益を守るために今すぐ取れる価格転嫁・契約見直しの実務を解説します。
なぜ建設業は「受注があっても倒産する」のか
建設業の倒産は「受注がないから」だけではありません。むしろ近年は「受注はあるが利益が出ない」「資材が上がって完成時に赤字になる」という構造的な倒産が増加しています。この背景にはいくつかの業界特有の事情があります。
- 見積もり→着工→完工までのタイムラグ:建設業は見積もり提出から着工まで数ヶ月、完工まで1年以上かかる案件も珍しくありません。見積もり時点の資材価格で固定した受注単価が、着工時・完工時には原価割れしているケースが急増しています。
- 「物価変動による請負代金の変更」が交渉できていない:建設業法・公共工事標準請負契約約款にはスライド条項(物価変動による代金変更規定)がありますが、民間工事では適用されないことも多く、発注者との交渉が後回しになりがちです。
- 下請の立場の弱さ:元請から一方的に資材単価を据え置かれ、下請業者が高騰分を丸かぶりするケースが後を絶ちません。国土交通省は「労務費・資材費の転嫁拒否は建設業法違反」として監視を強化していますが、現場の交渉は容易ではありません。
【2026年5月 最新事例】 2026年5月28日、建築資材卸(株)高木(神奈川県)がナフサ不足による仕入れコスト急騰を直接原因として破産申請しました(出典:東京商工リサーチ 2026/5/28)。建材卸業界で「ナフサ不足起因の破産」が正式に記録されたのは業界初の事例です。これは従来の「価格高騰で採算割れ→倒産」という構造に加え、「資材そのものが入手できなくなる→サプライチェーン断絶→倒産」という新パターンが現実化していることを示しています。発注先の建材卸が倒産すると、現場業者は突然の資材調達難に陥るリスクがあります。
価格転嫁交渉の進め方——「言いにくい」を乗り越える実務
- 資材価格の上昇を「数字で証明する」資料を用意する:国土交通省「建設工事施工統計調査」・建設物価調査会「建設資材価格指数」・日本鉄鋼連盟の鋼材価格データを用い、「見積もり時点(〇年〇月)と現在の価格差は〇%です」という客観的な証拠資料を作成します。感情論ではなく数字で示すことが交渉の第一歩です。
- 「協議申し入れ書」を書面で送付する:口頭では証拠が残りません。「建設資材価格の高騰に伴う請負金額の協議について」という件名で書面を作成し、メール・内容証明で発注者に送付します。法的拘束力はありませんが、交渉の意思と経緯を記録に残す上で重要です。
- 増加分を品目別に内訳明示した「変更見積書」を提出する:「一式〇〇万円値上げ」ではなく、「鉄筋:〇〇kg × 単価差〇〇円 = 〇〇万円」「塩ビ管:〇本 × 単価差〇〇円 = 〇〇万円」という品目・数量・単価差の3点セットで示すと、発注者も検討しやすくなり承認率が上がります。
新規契約に必ず入れるべき「エスカレーション条項」の書き方
エスカレーション条項(物価変動条項)とは、資材費・労務費が一定割合以上変動した場合に請負金額の協議・変更ができることを定めた条項です。以下は実務で使える条項例です。
【条項例】物価変動による契約金額の変更
「本契約の工事期間中において、主要建設資材(鋼材・生コンクリート・木材・石油化学系建材)の市場価格が本契約締結日の価格と比べ10%以上変動した場合、甲乙協議のうえ請負代金を変更することができる。変更を求める当事者は、変動の証拠資料(公的機関が公表する価格指数等)を提示のうえ、書面で申し入れるものとする。」
この条項を入れることで、着工後に原価が上昇した場合の協議権を確保できます。発注者が応じない場合でも、書面で申し入れた記録が後のトラブル対応の証拠となります。
まとめ——資材高騰時代の「利益を守る3原則」
| 課題 | 具体的な対策 | 効果 |
|---|---|---|
| 見積もり後の原価上昇 | エスカレーション条項を全契約に標準装備 | 着工後の増加分を発注者と協議できる権利を確保 |
| 価格転嫁交渉の難しさ | 公的資料による価格差の数値化+書面での申し入れ | 感情論でなく数字・証拠で交渉できる |
| 下請への転嫁拒否 | 建設業法第19条の3(不当な使用資材等の購入強制の禁止)・転嫁拒否の国交省相談窓口の活用 | 法的根拠で交渉を有利に進める |
- 受注があっても赤字工事が続けば建設会社は倒産します。価格転嫁は「わがまま」ではなく、企業存続に必要な正当な交渉です。
- 交渉の武器は「客観的な数字」「書面での記録」「法的根拠(建設業法・スライド条項)」の3点です。
- エスカレーション条項は今日から全見積書・全契約書に標準装備することで、将来の価格変動リスクを分散できます。
よくある質問
Q: 既に締結した契約にエスカレーション条項がない場合、後から価格変更を請求できるか?
契約書にエスカレーション条項がない場合でも、民法上の「事情変更の原則」を根拠に交渉することは可能です。また、公共工事の場合は標準約款(公共工事標準請負契約約款第26条)にスライド条項が設けられており、発注機関への協議申し入れが認められています。民間工事の場合は法的強制力は弱いものの、書面で交渉の意思を示し、双方の合意による変更契約書を締結することで対応できます。弁護士・建設業法務の専門家への相談も検討してください。
Q: 下請として元請から「資材費は据え置き」と言われた場合の対応は?
建設業法第19条の3は「不当に低い請負代金の設定を禁止」しており、国土交通省は資材費・労務費の転嫁拒否を同法違反として監視しています。まずは書面で価格転嫁の申し入れを行い、拒否された場合は国土交通省の「建設業法令遵守ガイドライン」に基づく相談窓口(建設業許可行政庁)や、中小企業庁の「価格転嫁サポート窓口」に相談することができます。記録をしっかり残しておくことが重要です。

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