昭和56年以前に建てられた旧耐震基準の住宅は、全国に約900万戸存在すると言われています。南海トラフ地震をはじめとする大規模地震の発生が危惧される中、これらの住宅の耐震化は喫緊の課題です。実際に香川県や東かがわ市では、自治体が積極的に旧耐震基準住宅への訪問啓発活動を展開しており、住民の関心は確実に高まっています。しかし、多くの所有者は「費用が高い」「何から始めればいいかわからない」という理由で、具体的な行動に移せていません。この記事では、自治体の耐震化施策の最新動向を踏まえながら、建設会社・工務店が旧耐震住宅所有者に対してどのようなアプローチを行うべきか、具体的な営業戦略と提案手法を解説します。
旧耐震基準住宅が抱える根本的なリスク
昭和56年以前の建築基準法が想定していなかった地震規模
旧耐震基準とは、昭和56年(1981年)5月31日以前の建築基準法に基づいて設計された住宅に適用されていた耐震基準のことです。この基準では、震度5強程度の地震に対して建物が倒壊しないことを目標としていました。しかし、平成7年(1995年)の阪神・淡路大震災や平成28年(2016年)の熊本地震では、震度6強から7の揺れが観測され、旧耐震基準の建物に甚大な被害が発生しました。
特に木造住宅では、壁量不足や接合部の強度不足が致命的な弱点となります。現行の新耐震基準(昭和56年6月1日以降)では、震度6強から7程度の地震でも倒壊しないことを目標としており、壁の配置バランスや柱と梁の接合方法についても、より厳格な規定が設けられています。この基準の差が、地震時の明暗を分けるのです。
データで見る旧耐震住宅の倒壊リスク
国土交通省の調査によると、阪神・淡路大震災における建物倒壊による死者の約9割が、旧耐震基準の建物に集中していました。また、熊本地震でも倒壊・崩壊した木造建築物の多くが旧耐震基準の建物でした。南海トラフ地震が発生した場合、最大で約23万棟の建物が全壊すると想定されており、そのうち相当数が旧耐震基準の住宅だと考えられています。
これらの事実を顧客に伝える際には、単なる脅しではなく、「家族の命を守るため」という視点で、データに基づいた冷静な説明が重要です。営業担当者は、地域の被害想定や過去の地震被害データを具体的に示すことで、住宅所有者の問題意識を喚起できます。
自治体の耐震化施策を営業に活用する方法

補助金制度と訪問啓発活動の最新動向
2026年現在、多くの自治体が旧耐震基準住宅の耐震化を推進するため、耐震診断や耐震改修工事に対する補助金制度を設けています。例えば、香川県と東かがわ市では、南海トラフ地震対策の一環として、旧耐震基準の住宅を直接訪問し、耐震化の必要性を説明する啓発活動を実施しています。
この自治体による訪問啓発は、建設会社にとって絶好の営業機会です。自治体が先に問題提起をしてくれることで、住民の関心が高まっている状態で営業アプローチができるからです。具体的には、自治体の啓発訪問から1〜2週間後に、補助金制度の詳細説明と耐震診断の提案を行うフォローアップ営業が効果的です。
補助金情報を整理した提案資料の作成ポイント
顧客が最も知りたいのは「実際にいくらかかるのか」という費用面です。耐震改修工事の平均費用は100万円から200万円程度ですが、自治体の補助金を活用すれば、自己負担を大幅に軽減できます。多くの自治体では、耐震診断費用の2分の1から全額、耐震改修工事費用の2分の1から3分の2程度を補助しています。
営業資料には、以下の情報を分かりやすく整理して記載しましょう。
- 耐震診断の補助金額と自己負担額
- 耐震改修工事の補助金額と自己負担額
- 申請手続きの流れと必要書類
- 補助金の申請期限と予算枠
自治体によっては予算に限りがあり、先着順や抽選制になっている場合もあります。「早めの決断が有利」という情報を添えることで、顧客の行動を促進できます。
耐震診断から改修工事までの実践的営業プロセス
初回訪問で信頼を獲得する耐震診断の提案話法
旧耐震基準住宅の所有者に対する初回訪問では、いきなり高額な耐震改修工事を提案するのではなく、まず耐震診断から始めることを推奨します。耐震診断は、住宅の現状を客観的に評価する手段であり、顧客にとっても「まず現状を知りたい」というニーズに合致します。
効果的な話法としては、「南海トラフ地震対策として、自治体も積極的に耐震化を推進しており、耐震診断には補助金が出ます。まずはご自宅の耐震性能を確認してみませんか」というアプローチが有効です。診断費用が数万円程度で、補助金を使えばさらに負担が軽くなることを明確に伝えましょう。
診断結果を分かりやすく説明する資料作成術
耐震診断の結果は、専門用語が多く一般の方には理解しにくい内容です。そこで、診断結果を「評点」という数値で示し、視覚的に分かりやすく説明することが重要です。
耐震診断の評点は以下のように分類されます。
- 評点1.5以上:倒壊しない(安全)
- 評点1.0以上1.5未満:一応倒壊しない(やや危険)
- 評点0.7以上1.0未満:倒壊する可能性がある(危険)
- 評点0.7未満:倒壊する可能性が高い(大変危険)
この評点を色分けした図表で示し、現状の住宅がどのレベルにあるかを明確に伝えます。そして、耐震改修工事によって評点がどこまで改善できるかをシミュレーションして提示することで、工事の効果を実感してもらえます。
予算に応じた段階的な耐震改修プランの提示
耐震改修工事には、さまざまな工法と費用レンジがあります。顧客の予算や優先順位に応じて、段階的なプランを提示することが成約率向上の鍵です。
例えば、以下のような3段階のプランを用意します。
- 最小限プラン(50万円〜80万円):最も危険度の高い箇所のみを補強
- 標準プラン(100万円〜150万円):評点1.0以上を目指す基本的な補強
- 安心プラン(150万円〜250万円):評点1.5以上を目指す全面的な補強
それぞれのプランについて、施工内容・工期・補助金適用後の自己負担額を明記した見積書を作成します。「まずは最小限プランから始めて、将来的に追加補強する」という選択肢も提示することで、顧客の心理的ハードルを下げられます。
成約率を高める営業資料とコミュニケーション戦略

不安を解消する施工事例とビフォーアフターの活用
旧耐震基準住宅の所有者の多くは高齢者であり、「工事中の生活はどうなるのか」「本当に効果があるのか」といった不安を抱えています。これらの不安を解消するために、過去の施工事例を写真付きで紹介することが効果的です。
特に、以下の情報を含めた施工事例集を作成しましょう。
- 施工前後の写真:壁の補強、接合部の金物設置などの様子
- 工期と生活への影響:「住みながら施工可能」「1週間で完了」など
- お客様の声:実際に工事を行った方のコメント
- 耐震診断の評点改善結果:0.6から1.2に向上、など具体的な数値
また、耐震改修工事と併せてリフォーム工事を行うケースも多いため、「耐震化と同時にキッチンもリフォーム」といった複合提案も効果的です。
地域の地震リスクを可視化する説明ツール
南海トラフ地震対策を営業トークに組み込む際には、地域ごとの被害想定を具体的に示すことが重要です。内閣府や各都道府県が公表している地震被害想定をもとに、以下の情報を地図やグラフで視覚化した資料を作成します。
- 想定される震度分布
- 津波浸水想定区域
- 建物被害の想定棟数
- 避難所の位置と収容人数
「この地域では震度6強が想定されており、旧耐震基準の住宅の多くが倒壊リスクを抱えています」という説明に、具体的なデータを添えることで説得力が増します。ただし、過度に不安を煽る表現は避け、「備えることで安心して暮らせる」という前向きなメッセージを伝えることが大切です。
よくある質問
Q1. 旧耐震基準の住宅はいつ建てられたものを指しますか?
1981年5月31日以前に建築確認を受けた住宅を指します。新耐震基準は1981年6月1日施行のため、それ以前の建物は震度6強以上の地震で倒壊リスクが高いとされています。築40年以上の木造住宅が主な対象となります。
Q2. 自治体の耐震診断補助金を活用した営業手法を教えてください
まず地域の補助金制度を詳しく調査し、診断費用の自己負担額を明示した提案書を作成します。無料耐震診断実施自治体では積極的に案内し、診断結果に基づく改修プランと補助金適用後の実質負担額を具体的に提示することで成約率が向上します。
Q3. 耐震改修工事の補助金は平均どのくらい受けられますか?
自治体により異なりますが、工事費用の50〜80%を補助する制度が一般的で、上限額は100万円〜150万円程度です。国の補助制度と併用できる場合もあり、条件次第では200万円以上の補助を受けられるケースもあります。
Q4. 耐震化営業で顧客の不安を解消する効果的なトークは?
具体的な被害想定と改修後の安全性を数値で示すことが重要です。「震度6強で倒壊リスク87%が改修後3%に低減」など耐震評点の変化を説明し、家族の命を守る投資であること、補助金で実質負担が軽減されることを強調します。
Q5. 旧耐震住宅の所有者リストを効率的に入手する方法は?
自治体の耐震化促進事業に協力事業者として登録する方法が効果的です。また固定資産税台帳の閲覧、住宅地図と建築年データの照合、自治会との連携による情報収集も有効です。個人情報保護法に配慮した適切な方法で取得することが必須です。
まとめ

旧耐震基準の住宅所有者に対する耐震化の提案は、単なる営業活動ではなく、地域の防災力向上に貢献する社会的意義のある仕事です。重要なポイントは以下の3点です。
- 自治体の耐震化施策を積極的に活用し、補助金情報を分かりやすく整理して提案することで、顧客の経済的負担を軽減し、行動のハードルを下げられます。
- 耐震診断から始める段階的なアプローチを取ることで、顧客の信頼を獲得し、最終的な耐震改修工事の成約につなげることができます。
- 具体的なデータ・事例・ビフォーアフターを活用した視覚的な説明資料を準備することで、専門知識のない顧客にも理解しやすく、不安を解消できます。
南海トラフ地震への備えが急務となっている今、耐震化の必要性を正しく伝え、実行可能なプランを提示することが、建設会社・工務店の重要な役割です。まずは自社の営業エリアにおける自治体の補助金制度を調査し、顧客に提示できる資料を整備することから始めましょう。

コメント