「一人親方でも建設業許可が必要なのか」「取ってもコストの割にメリットがあるのかわからない」——こうした疑問を持ったまま、許可取得を先送りにしている一人親方・個人事業主は少なくない。しかし、2026年現在において建設業界の元請・発注者側が「許可業者への限定発注」を強化する傾向が強まっており、許可なしでは受注できる仕事の範囲が年々狭まっている。この記事では、一人親方・個人事業主が建設業許可を取るべきタイミングと具体的な取得手順を解説する。
500万円ルールとは——許可が「必要になる」境界線
建設業法第3条は、「建設業を営む者は、建設業の許可を受けなければならない」と規定している。ただし同条ただし書きにより、以下の「軽微な建設工事」のみを請け負う場合は許可不要だ。
- 建築一式工事以外の場合:工事1件の請負代金が500万円未満(税込)の工事
- 建築一式工事の場合:工事1件の請負代金が1,500万円未満(税込)、または延べ面積150㎡未満の木造住宅工事
つまり、1件の工事が500万円(建築一式の場合は1,500万円)を超えた瞬間に、建設業許可が必要になる。一人親方でも例外はない。
注意が必要なのは「分割発注による500万円回避」だ。同一の工事を意図的に分割して1件あたりの金額を500万円未満にしても、「一体の工事」とみなされれば許可が必要と判断される。国土交通省の解釈では、正当な理由のない分割発注は許可の回避目的とみなされる可能性が高い。
建設業許可を取るメリット——受注機会と信頼が大幅に拡大する
一人親方・個人事業主が建設業許可を取ることのメリットは「法的義務を果たす」だけではない。実際のビジネス上のメリットは以下の通りだ。
メリット①:受注できる仕事の上限がなくなる
許可取得前は1件500万円未満の工事のみが対象だったが、許可取得後は金額の上限なく受注できるようになる(一般建設業許可の場合、下請に出せる金額の上限がある点には注意)。単価の高い工事・大型案件に参入できるようになり、年商の大幅な増加につながるケースが多い。
メリット②:元請・発注者からの信頼が格段に向上する
2026年現在、多くの元請業者が「下請業者の許可確認」を義務付けている。ゼネコン・大手ハウスメーカーへの下請参入には「許可業者であること」が事実上の前提条件になっているケースが増えている。許可番号がkensetu-mirai.comのデータベースに掲載されることで、発注者・元請が「信頼できる業者」として検索・確認できるようになる。
メリット③:公共工事入札の参加資格を得る第一歩になる
国・都道府県・市町村の公共工事に入札参加するためには、建設業許可の取得が必須条件だ。許可を取得した後に経営事項審査(経審)を受審し、入札参加資格の申請を行うことで、公共工事受注への道が開ける。一人親方であっても許可取得→経審受審→入札参加のルートを歩んだ事業者は存在する。
2026年版・一人親方が許可を取るための3つの取得要件
一人親方・個人事業主が建設業許可(一般建設業許可・知事許可)を取るためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要がある。
要件①:経営業務の管理責任者(経管)
建設業の経営経験が一定年数以上あることを証明する必要がある。2020年10月の建設業法改正により、要件が緩和された。改正後の主な要件は以下の通りだ。
- 許可を受けようとする建設業に関し、5年以上の経営業務の管理経験がある(個人事業主として5年以上建設業を営んできた場合、これに相当する)
- または建設業に関し、6年以上経営業務の補佐経験がある
- または5年以上の役員等の経験がある(うち2年以上は建設業での経験)
一人親方として5年以上事業を営んできた場合、確定申告書・工事請負契約書・注文書・請求書等で「建設業として継続的に営業してきた事実」を証明できれば、この要件を満たせる可能性が高い。
要件②:専任技術者
許可を取ろうとする業種の工事について、一定の資格または実務経験を持つ技術者が営業所に常勤していることが必要だ。一人親方の場合、自分自身がこの専任技術者になることが一般的だ。
専任技術者になるための主な方法は以下の通りだ。
- 国家資格による証明:第一種電気工事士・建築施工管理技士(1・2級)・管工事施工管理技士 等、業種に対応した国家資格を保有している場合は実務経験不要で専任技術者になれる。
- 実務経験による証明:許可業種の実務経験が10年以上あることを、工事請負契約書・注文書・請求書等で証明する(指定学科卒業者は3〜5年に短縮)。
要件③:財産的基礎
一般建設業許可の場合、以下のいずれかを満たす必要がある。
- 自己資本が500万円以上
- 500万円以上の資金調達能力がある(銀行等の残高証明書で証明)
- 申請直前5年間、許可を受けて継続して建設業を営んできた実績がある
個人事業主の場合、「自己資本」は事業用の純資産(資産合計−負債合計)で計算される。残高証明書で500万円以上を証明する方法が最も手続きが簡単だ。証明書の発行日は申請受付日から3ヶ月以内のものが必要なため、申請直前に銀行に発行を依頼する。
許可取得後にデータベースへ掲載される流れ
建設業許可の申請後、審査には都道府県知事許可の場合で標準処理期間30日(都道府県によっては2〜3ヶ月かかる場合がある)を要する。許可が下りると許可通知書が届き、その後国土交通省のデータベースに情報が反映される。
kensetu-mirai.comへの掲載は、国土交通省データベースへの反映後、数週間〜1ヶ月程度で行われる。掲載後は、以下の情報が発注者・元請に公開される。
- 商号(個人事業主の場合は屋号または氏名)
- 代表者名・所在地
- 許可番号・許可区分(一般/特定)
- 許可業種・許可有効期限
許可取得後は、建設業許可を持つ会社を都道府県で検索するページで自社名を検索し、正確に掲載されているかを確認することを推奨する。
一人親方が許可取得で失敗するよくある4つのパターン
許可取得を目指した一人親方が途中でつまずくケースには、以下の4つのパターンが多い。事前に把握して対策することで、申請のやり直しや長期化を防げる。
| 失敗パターン | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| ①経管の証明書類が不足 | 過去の工事の契約書・注文書を保管していなかった | 今から工事の記録を整備する。過去5年分の確定申告書・請求書を揃える。 |
| ②専任技術者の実務経験証明ができない | 実務経験10年の工事記録が証明できない | 国家資格取得を優先する。資格があれば実務経験証明が不要。 |
| ③財産的基礎の残高証明書の日付が古い | 残高証明書の有効期限(3ヶ月)を過ぎていた | 申請直前に銀行窓口で発行依頼する。 |
| ④申請する業種を間違える | 実際にやっている工事と許可業種が一致していない | 申請前に「自分が請け負う工事がどの業種に該当するか」を都道府県の建設業担当課に確認する。 |
まとめ:一人親方が許可取得を決断すべき3つのシグナル
- シグナル1:「500万円近くの工事の打診が来たが、許可がないために断った」経験が1度でもある。
- シグナル2:「元請から許可業者のみに発注を限定する」という通知を受け取った、または聞いた。
- シグナル3:「今後、公共工事にも参加したい」「より大手の元請と取引したい」という目標がある。
上記のシグナルが1つでも当てはまるなら、建設業許可の取得を今すぐ検討すべきタイミングだ。取得要件の確認は、kensetu-mirai.comのデータベースで同業他社(同業種・同地域の許可業者)の情報を確認することから始めるのが手っ取り早い。「自分と同じ規模の業者がどれだけ許可を持っているか」を確認するだけで、取得の必要性が実感できるはずだ。
許可取得に関して不明点がある場合は、各都道府県の建設業許可担当課または行政書士に相談することを推奨する。申請書類の作成を行政書士に依頼する場合の費用は、知事許可の新規申請で10〜15万円程度が相場だ。
➡ 建設業許可を持つ会社を都道府県で検索する(同業者の許可状況を確認する)
➡ 都道府県別の建設業情報・手続きガイド(申請窓口情報を確認する)
よくある質問
Q: 一人親方が個人で建設業許可を取った場合、法人成りしたときに許可は引き継げる?
2020年10月の建設業法改正(令和2年改正)により、個人事業主が法人成り(個人→法人へ事業移行)した場合に建設業許可を承継できる「許可の承継制度」が新設されました(建設業法第17条の3)。承継するには都道府県知事(または国土交通大臣)への認可申請が必要で、認可が下りるまでの間は個人の許可のまま法人として工事を施工できます。ただし一定の要件があるため、法人成りを検討している場合は早めに行政書士または都道府県建設業担当課に相談することを推奨します。
Q: 一人親方で経営業務管理責任者と専任技術者を同一人物(自分一人)が兼務できる?
はい、一人親方の場合は経営業務管理責任者(経管)と専任技術者(専技)を本人1人が兼務することが認められています。ただし、両方の要件をそれぞれ満たす必要があります。例えば「屋根工事業」の許可を取る場合、経管としては5年以上の経営経験の証明が必要で、専技としては屋根工事の実務経験10年以上または対応国家資格の保有が必要です。1人で両方の要件を満たしている場合は、一人で申請を完結させることができます。

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