「デフレーターという言葉は知っている。でも実際にどう使えばいいか分からない」——そう感じている建設会社の経営者・事務担当者の方は多いはずです。
実は、e-Stat(政府統計の総合窓口)から30秒でダウンロードして、Excelで5分あれば自社の工事費変動を数字で把握できます。パソコンでワープロ打ちができる方なら誰でも対応可能です。
この記事では、建設工事費デフレーターを「実際に手を動かして使う」手順を、画面説明つきで完全解説します。計算した結果を発注者との価格交渉に活用したい方は、交渉根拠資料の作り方(第1弾記事)もあわせてご覧ください。
第1章:デフレーターとは何か——ゼロから理解する3つのポイント
「デフレーター」という名前は難しく聞こえますが、仕組みは単純です。3つのポイントで完全に理解できます。
ポイント1:「名目工事費」と「実質工事費」の違い
2022年に2,000万円で請け負った工事と、2024年に2,000万円で請け負った工事。金額は同じでも、実際の工事の価値(実質工事費)はまったく異なります。
なぜなら、鉄骨・コンクリート・木材などの資材費が2022年から2024年にかけて大幅に上昇したからです。同じ2,000万円でも、2024年は以前より少ない量の資材しか買えません。
- 名目工事費:契約書や見積書に記載される「円の金額」
- 実質工事費:物価変動を除いた「実際の価値ベースの金額」
デフレーターは、この「名目」と「実質」の変換に使う指数です。「1,000万円の工事が本当に1,000万円分の価値があるか」を確認できるツールと考えてください。
ポイント2:基準年(2015年度=100)の意味
デフレーターの指数は「2015年度を100」として計算されています。「2015年に100円で買えたものが今いくらになったか」という尺度です。
例:鉄骨造のデフレーターが131.7の場合 → 2015年に100万円分の工事が、今は131.7万円かかるということです。つまり31.7%の費用増が起きていると読み取れます。
ポイント3:工事種別ごとに指数が異なる
デフレーターは「木造住宅」「鉄骨造」「RC造(鉄筋コンクリート造)」「設備工事」「土木工事」など、工事種別ごとに数値が公開されています。同じ時期でも種別によって上昇率が異なるため、自社の工事種別に合った数値を使うことが重要です。
| 年度 | 木造住宅 | 鉄骨造 | RC造 | 設備工事 | 土木工事 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2019年度 | 106.2 | 108.3 | 106.5 | 105.8 | 107.1 |
| 2020年度 | 107.4 | 108.9 | 107.2 | 106.3 | 108.5 |
| 2021年度 | 114.8 | 117.2 | 113.9 | 112.6 | 113.7 |
| 2022年度 | 124.3 | 129.5 | 123.8 | 122.1 | 119.4 |
| 2023年度 | 127.6 | 131.2 | 126.4 | 125.3 | 121.8 |
| 2024年度(速報) | 129.1 | 133.4 | 128.7 | 127.9 | 124.2 |
詳しい統計の読み方は、建設工事費デフレーターとは?基礎知識・統計概要をご覧ください。
第2章:e-Statからデータをダウンロードする——画面つき7ステップ
デフレーターのデータは、e-Stat(政府統計の総合窓口)から無料で取得できます。以下の7ステップに従ってください。
まず、以下のURLをブラウザで開きます:
https://www.e-stat.go.jp/stat-search?query=建設工事費デフレーター
- 検索結果の一覧が表示されます。「建設工事費デフレーター / 時系列(年度別)」という行を探してください。一覧の上から2番目あたりに表示されます。
- その行の右端にある「EXCEL」ボタンをクリックします(緑色のダウンロードボタンです)。
- ファイルが自動でダウンロードされます。ファイル名は
defnendo20XX.xlsxのような名前になります。 - ダウンロードしたファイルをダブルクリックしてExcelで開きます。
- ファイルを開くと複数のシートがあります。「建築」または「土木」のシートタブをクリックして選びます。
- シート内の列見出しから、自社の工事種別(鉄骨造・RC造・木造など)を探します。
- 対象年度の行と交差するセルの数値がそのデフレーター指数です。これをメモしておきます。
また、年度別のデータはe-Stat DBビューア(sid=0003447803)からも確認できます。グラフや比較表が見やすい形で表示されるため、確認用に活用してください。
【ここで迷いやすいポイント】
Excelが開けない場合は、Googleスプレッドシートでも開けます。Googleドライブにアップロードして「Googleスプレッドシートで開く」を選択してください。
どのシートを見ればよいか分からない場合:木造・プレハブ住宅は「建築(住宅)」シート、鉄骨造・RC造・マンションは「建築(非住宅)」シート、道路・橋梁・上下水道は「土木」シートが目安です。

第3章:実質工事費を自社で計算する——Excel使用例
データが準備できたら、次はExcelで計算します。計算式は以下の1つだけです。
実質工事費 = 名目工事費 ÷ デフレーター指数 × 100
割り算とかけ算のみなので、Excelが得意でなくても大丈夫です。
Excel上での操作手順
以下の列構成でExcelシートを作ります。
| セル | 入力内容 | 例 |
|---|---|---|
| A1 | (見出し)年度 | — |
| B1 | (見出し)名目工事費(万円) | — |
| C1 | (見出し)デフレーター指数 | — |
| D1 | (見出し)実質工事費(万円) | — |
| A2 | 年度を入力 | 2022 |
| B2 | 名目工事費を入力 | 2000 |
| C2 | e-Statから転記した指数 | 129.5 |
| D2 | 数式を入力:=B2/C2*100 | 1544(自動計算) |
D2セルに =B2/C2*100 と入力するだけで、実質工事費が自動計算されます。年度を増やす場合は、行をコピーして年度と指数を書き換えるだけです。
計算例:鉄骨造 2,000万円の工事
| 年度 | 名目工事費 | 鉄骨造指数 | 実質工事費 | 価値の差 |
|---|---|---|---|---|
| 2022年度 | 2,000万円 | 129.5 | 1,544万円 | (基準) |
| 2024年度 | 2,000万円 | 133.4 | 1,499万円 | △45万円の目減り |
さらに、2022年と2024年で「同じ工事をした場合の費用増」を逆算すると:
上昇率 =(133.4 ÷ 129.5)×100 − 100 ≒ 3.0%
2,000万円の工事なら、約60万円分のコスト増が2022〜2024年度間に発生していることが数字で分かります。この計算結果こそが、発注者への価格説明の根拠になります。
資材高騰の現状については、建設資材高騰はいつまで続く?2026年の見通しもあわせてご確認ください。


第4章:計算結果を使える場面——3つの実務シーン
シーン1:見積もり作成時(過去の工事費を実質値で比較する)
過去に受注した類似工事の費用を実質値に換算することで、「以前より安く受注しすぎていないか」を確認できます。単純に「前回いくらだった」という比較ではなく、物価変動を除いた本当の採算を把握できます。
社内の原価管理に活用することで、値下げ交渉への耐性根拠としても使えるようになります。
シーン2:発注者への価格改定説明(交渉の根拠として)
第3章の計算結果(上昇率・金額換算)は、そのまま発注者への説明資料に転用できます。「感覚で上がっている」ではなく、「国土交通省の公式統計によると〇%上昇」という説明ができます。
具体的な根拠資料の作り方・交渉トークスクリプトはデフレーターを交渉の武器にする(第1弾記事)で詳しく解説しています。
シーン3:社内の原価管理・利益率計算
年度ごとの実質工事費を並べると、「名目上は利益が出ているのに実質では採算割れしている」状況が可視化されます。経営判断のための数値として、決算書の数字をデフレーターで補正する活用法も有効です。
第5章:よくある疑問と対処法
月次データと年度データ、どちらを使えばよいですか?
目的によって選びます。
- 特定の月に締結した契約を比較したい → 月次データ(e-Statに月次版もあります)
- 年度単位の経営分析・決算書との照合 → 年度データ
- 迷う場合 → 年度データで把握してから、必要であれば月次データで詳細確認するのが実務的です
工事種別が複数ある場合はどうすれば?
工事費の中で最も割合が大きい工事種別のデフレーターを使うのが一般的です。例えば、鉄骨造の建屋工事60%+設備工事40%の場合、鉄骨造のデフレーターを主として使い、設備工事の比率を加味した加重平均で計算する方法もあります。
複雑な計算が必要な場合は、建設業専門の税理士や行政書士への相談も選択肢です。
デフレーターが下がることはありますか?
あります。2008〜2015年頃(リーマンショック後の工事費下落期)はデフレーターも低下傾向でした。2021年以降の資材高騰局面では上昇が続いていますが、今後の資材価格動向によっては下落する可能性もあります。資材価格の見通しも参考にしてください。
まとめ
建設工事費デフレーターの活用ポイントを3点にまとめます。
- e-Statから無料でダウンロードできる:国土交通省の公式データで、毎月更新されます
- Excelで5分で計算できる:必要な数式は
=名目工事費÷指数×100の1つだけです - 計算結果は発注者交渉・原価管理・見積もり比較に使える:数字を持つことで交渉の主導権が変わります
まず今日、e-StatでデフレーターのExcelを1回ダウンロードして、自社の直近2年間の指数を比べてみてください。その数字が、明日からの交渉の武器になります。
発注者との価格改定交渉に使う資料の作り方・トークスクリプトは、デフレーターを交渉の武器にする(第1弾記事)で詳しく解説しています。第1弾と合わせて読むことで、データの取得から交渉実践まで一連の流れをカバーできます。

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