足場工事業者が​低価格受注から​抜け出す方法|​人件費上昇への備え

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住宅の外壁で足場の単管を締める職人

建設業許可を取得し、足場工事業を営む事業者の方々にとって、経営環境は年々厳しくなっています。売上が億単位の足場工事業者でも、低価格での受注と人件費の管理を誤れば、破産に至るおそれがあります。このような経営危機を避けるためには、建設業許可取得後の経営安定化戦略が不可欠です。本記事では、足場工事業の経営危機を防ぐ対策と、人件費管理の実践的な方法、さらには耐震住宅需要といった新規事業展開の機会について解説します。これからの経営方針を見直す際の参考にしてください。

目次

足場工事業が直面する経営危機の実態

低価格受注が招く利益圧縮のメカニズム

建設業許可を取得した足場工事業者の中には、案件獲得のために受注価格を低く抑えるところもあります。競争が激化する中で「安さで選ばれる」というビジネスモデルに陥るのですが、これが経営を苦しくする原因の一つになります。

たとえば年売上1.4億円の足場工事業者を想定すると(想定の例)、低価格受注が続けば粗利率が30%を下回る案件が積み重なります。低価格受注が常態化すると、売上が伸びても利益は増えません。さらに、原価が見積もりより膨らむと、たちまち赤字案件に転落します。

低価格受注の危険性は、次の点にあります:

  • スケールメリットの錯覚:大量受注すれば利益が出るという誤判断
  • 原価管理の甘さ:低価格設定時に原価を厳密に計算していない
  • 値上げ交渉の困難さ:一度低価格で受注すると、次の案件でも同等の価格を求められる

建設業許可の取得後、市場での立場を確立しようとして低価格戦略を取る企業は少なくありませんが、その戦略が長期間続くと企業体力を消耗させます。

人件費上昇が経営を圧迫する現状

建設業界全体で人材不足が深刻化している令和8年(2026年)、足場工事業の現場作業員の賃金も上昇傾向が続いています。求人難に対応するため、時給や日当を引き上げざるを得ない状況にあります。

足場工事の会社は、売上に占める人件費の割合が高くなりやすい業種です。人件費の割合が高くなる背景には:

  • 職人の高齢化と若手不足:経験者を確保するため高給与を提示する必要がある
  • 安全管理コストの増加:安全教育・保険・装備品費用が増加
  • 残業費用:現場の工期短縮要求に応じるための時間外労働費

低価格受注と人件費上昇が同時に進むと、粗利から人件費を差し引いた営業利益は急速に悪化します。売上が増えるほど人件費総額も増え、結果として企業は自転車操業に陥るのです。

建設業許可企業が実践すべき人件費管理の戦略

作業服の人が電卓で金額を確かめる手元
作業服の人が電卓で金額を確かめる手元(イメージ)

適正利益を確保するための受注基準の設定

建設業許可取得後、経営安定化を実現する第一歩は、受注時点で適正な利益率を確保することです。これは口で言うほど簡単ではありませんが、仕組み化することで実現できます。

具体的には、以下のステップで受注基準を決定します:

  1. 過去3年間の原価データを整理:案件規模別、季節別、難易度別に原価率を集計
  2. 適正粗利率を設定:自社の実績と、回収しなければならない固定費から逆算して決定
  3. 受注価格の下限を明示:「この価格以下では受注しない」という基準を全営業担当者に周知
  4. 定期的な見直し:3ヶ月ごとに原価データを更新し、受注基準を調整

こうした会社が破産に向かう理由の一つは、受注の判断が担当者まかせになり、無理な価格で受注してしまうことです。建設業許可を持つ企業であれば、社内ルールとして受注基準を文書化し、全従業員に周知することが求められます。

また、大手ゼネコンからの下請け受注では、発注者が価格を指定してくることもあります。その場合、原価の根拠を示して交渉し、合わなければ「この価格では対応できない」とはっきり断ることも必要です。注文者が取引上の地位を利用して、通常必要な原価に満たない金額で契約させることは、建設業法第19条の3で禁止されています。1件の赤字案件を受注すれば、その損失を埋めるために黒字案件を複数受注する必要が生じます。

人件費の適正水準と人員配置の最適化

人件費管理は、単に給与を低く抑えることではなく、生産性と給与のバランスを取ることです。令和8年(2026年)現在、足場工事業で求められる対策は以下の通りです:

給与体系の見直し

  • 日当制から月給制へのシフト:固定費を明確にし、人員計画が立てやすくなります
  • 歩合給の上限設定:過度な残業インセンティブを避け、安全作業を優先する環境を作ります
  • 昇給ルールの明示:職人のモチベーション維持と定着率向上につながります

人員配置の効率化

  • 作業員の稼働率管理:現場のない期間を最小化し、遊休人員を減らします
  • 多能工の育成:足場工事だけでなく、他の建設工事にも対応できる職人を確保し、仕事量の変動に柔軟に対応します
  • 協力会社との連携:繁忙期は許可を持つ協力会社に下請として発注する(建設現場の作業への労働者派遣は労働者派遣法第4条で禁止されているので、派遣社員を足場の組立てに就かせることはできない)

仮に年売上1.4億円の会社で職人を固定費で抱えると、安定した案件の獲得が欠かせません。経営安定化のためには、雇用形態の多様化により、固定費と変動費のバランスを改善することが有効です。

原価管理システムの導入と実運用

低価格受注を避けるためには、各案件の原価を正確に把握する仕組みが必要です。建設業法では営業所ごとに帳簿を備えて保存することが義務付けられており、毎年の決算の届出でも完成工事原価報告書を出します。

実践的な原価管理のポイント:

  • 見積段階での詳細原価計算:人件費、材料費、機械費、運搬費などを案件ごとに細分化
  • 施工段階での実績把握:現場から日々の労務実績、材料使用量を報告させ、見積との乖離を把握
  • 完工月の実績集計:全案件の実原価を計算し、見積との差異を分析
  • 差異の原因追及:赤字案件が発生した場合、原因を特定し、次の見積に反映

これらの仕組みは、会計ソフトや建設業専用の原価管理システムを導入することで、効率化できます。ただし、システム導入だけでは効果が出ず、運用ルールの定着が重要です。

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耐震住宅需要と新規事業展開による経営安定化

耐震化需要の現状と建設業許可企業の機会

建設業許可を取得した足場工事業者にとって、低価格受注と人件費上昇の二重苦から脱出するための一つの手段が、事業領域の拡大です。その有力な選択肢が「耐震化工事」への参入です。

国土交通省の推計では、耐震性が不足する住宅は全国で約570万戸(令和5年・耐震化率 約90%)あります。外壁側の耐震改修では足場が必要になることが多く、足場工事業者はこの領域で安定した需要を見込むことができます。

耐震化工事の特徴:

  • 公共補助金の活用:多くの自治体が耐震改修工事に補助金を交付しており、発注者が安心して工事を依頼できる
  • 継続的な需要:建物の寿命まで耐震化の必要性は続く

足場工事業者が耐震化工事を主要業務の一つとすることで、従来の低価格競争から脱却し、経営安定化が期待できます。

耐震化工事への参入に必要な対応

耐震化工事に参入するためには、単に足場を組む技術だけでは不十分です。足場工事の許可(とび・土工工事業)だけでは、耐震改修そのものを税込500万円以上で請け負うことはできず、建築工事業や大工工事業などの許可が要ります。そのうえで、以下の準備が必要です:

営業戦略の転換

  • 工務店・リフォーム会社との協力関係構築:耐震化工事を主導する工務店や設計事務所とのネットワーク形成
  • 自治体の補助制度に関する情報収集:各地域で異なる補助金制度を理解し、クライアントに提案できる体制
  • 耐震化の必要性に関する営業提案資料:建て主に対して、なぜ耐震化が必要かを分かりやすく説明できる資料

技術力・人材の確保

  • 耐震工事専門職人の育成:従来の足場工事とは異なる施工技術が必要な場合がある
  • 安全管理体制の強化:既存建物での工事は新築工事より安全リスクが高い場合がある
  • 品質管理の徹底:補助金対象工事のため、完成度に対する要求が高い

経営基盤の整備

  • 資金繰りの改善:補助金交付には申請から支給まで時間がかかる場合があり、つなぎ資金の確保
  • 保険・担保の拡充:新規工事分野に対応した施工保険の加入
  • 人員採用計画:耐震化工事の需要増に対応するための職人確保

建設業許可を取得したからには、事業領域を戦略的に拡大することが経営安定化の鍵になります。

よくある質問

鉄骨の梁の下で単管を取り付ける職人
鉄骨の梁の下で単管を取り付ける職人(イメージ)

Q1. 足場工事の低価格受注で経営が悪化する理由は何ですか?

低価格受注は短期的に受注量は増えますが、人件費や材料費の削減が限界に達すると利益が圧縮されます。特に労務単価が上昇する現在、固定費を回収できず赤字案件が増加し、キャッシュフローが悪化するため経営危機に陥りやすくなります。

Q2. 人件費上昇への対策として建設会社ができることは?

生産性向上が重要です。作業工程の効率化、熟練工の育成、機械化・省人化技術の導入を進めましょう。また長期雇用で人材を確保し、賃金相場を適切に見直すことで離職防止にもつながります。

Q3. 受注価格を適切に設定するポイントは?

原価計算を正確に行い、人件費・材料費・機械費・間接費を把握することが基本です。業界相場と自社の利益率を考慮し、ダンピング受注は避けましょう。自社の固定費を回収できる利益率を受注の下限にしましょう。

Q4. 足場工事で経営を改善する経営手法は?

複数工事の集約発注で運搬費を削減、協力業者との連携強化、見積精度の向上が有効です。定期的な原価分析で問題案件を早期発見し、不採算工事を受注しない体制構築が重要です。

Q5. 人材確保が困難な場合の対応策は?

賃金・待遇の改善は必須ですが、同時にキャリアパス構築や教育研修充実で働き環境を整備しましょう。外国人労働者の活用、建設技能者の認定資格取得支援も検討の価値があります。離職率低下で採用コストも削減できます。

まとめ

足場工事業者の経営危機から学ぶべき教訓は、①低価格受注と人件費上昇への同時対応の重要性、②建設業許可企業として原価管理と受注基準の明確化、③新規事業領域(耐震化工事など)への戦略的参入、の3点です。売上が億単位の企業であっても、低価格受注と人件費管理を誤れば破産に至りうるため、経営規模に関わらず経営安定化戦略が必須です。

建設業許可を持つ足場工事業者が生き残るためには、受注基準の明文化、人員配置の効率化、原価管理システムの導入という地道な取り組みと、耐震化工事などの新規事業展開を組み合わせることが有効です。低価格受注から抜け出すために、まずは過去3年間の案件実績から原価率を集計し、社内の受注基準を明確に決定することから始めましょう。

この記事は一般的な情報をまとめたものです。法令や制度は変わることがあるため、最新の内容は公表元で確認し、個別の判断は窓口の役所や専門家(行政書士・社会保険労務士・税理士など)に相談してください。

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この記事を書いた人

建設業許可(一般・特定)の新規取得・更新・業種追加から変更届・廃業届まで幅広い申請実務に精通した許可申請の専門家。国土交通省の法改正情報を継続的に追跡し、都道府県ごとの審査基準の違いや落とし穴を解説。経営事項審査(経審)・入札参加資格・財産的基礎要件の確認方法など、中小建設会社が直面する許可維持の課題に対応した情報を提供している。

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