耐震化が​進まない地方の現実|​高齢化と​資金不足が​改修の課題に

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山あいに建つ瓦屋根の古い日本の家

地震大国である日本において、住宅の耐震化率は全国では約9割まで進んだ一方、市町村ごとに見ると全国平均を大きく下回るところがあるのをご存知でしょうか。熊本地震から10年が経過した今もなお、地方の住宅課題として耐震化の遅れが深刻化しています。工務店やリフォーム会社が耐震改修工事を営業する際、顧客から「資金がない」「高齢だから必要ない」という返答を受けることは少なくありません。これは単なる防災意識の欠如ではなく、地方特有の人口減少、高齢化、経済格差が複合的に作用した構造的な課題です。本記事では、耐震化率が停滞する理由を統計データと実例から紐解き、工務店が直面する顧客説得の課題と、それを乗り越えるための実践的な営業戦略をお伝えします。

目次

地方で耐震化率が進まない現状データ

全国と地方の耐震化率格差

国土交通省の推計では、全国の住宅の耐震化率は2023年(令和5年)時点で約90%(総戸数 約5,570万戸のうち耐震性のある住宅 約5,000万戸)ですが、地域差があります。多くの市町村は耐震改修促進計画(令和7年4月時点で98.8%の市町村が策定)で地域の耐震化の現状と目標を示しており、高齢化が進む農村部や地方都市では全国平均を下回る例が目立ちます。工務店が営業する地域の数字を、まず市町村の計画で確かめてください。

耐震化率の停滞は「認知不足」ではなく「資金と判断の課題」です。震災直後は改修への関心が高まるものの、時間がたつにつれて関心は薄れがちです。工務店の営業活動においても、この心理的な「風化」を乗り越える提案設計が求められます。

高齢化と耐震投資の関係

高齢化が進む地方で耐震投資が進まない理由は、高齢者が「後々の大規模改修に資金を残したい」「残された人生で大掛かりな工事は避けたい」という心理を持つからです。年金生活者にとって数百万円の耐震改修工事は、他の優先事項(医療費、介護費用など)と天秤にかけられます。

工務店が直面する「耐震工事が受注に結びつかない」という課題は、顧客心理の問題というより、地方における経済環境と人口構成の問題なのです。

既存住宅の改修工事が進まない実務的な課題

筋かいの入った木造住宅の改修の途中
筋かいの入った木造住宅の改修の途中(イメージ)

資金負担の構造的な課題

既存住宅の耐震改修工事の相場は、規模によって異なりますが、一般的には150万~400万円程度です。地方では農地や空き家の価値低下に伴い、住宅そのものへの投資意欲が減退しています。さらに問題なのは、耐震改修のみでは「生活の質向上」という実感を得られない点です。

キッチンやバスルームのリフォームであれば、改修後に「生活が便利になった」という実感を得られますが、耐震改修は「地震が来たときのためのもの」であり、実感を伴いにくいのです。工務店が減災化リフォームとセットで提案する工夫が必要な理由もここにあります。

また、減税制度や補助金制度の存在を知らない高齢者が大多数です。耐震改修税制や各自治体の耐震改修補助金(補助の額と割合は自治体によって異なります)の活用を丁寧に説明することで、顧客の負担感を軽減できます。

施主の住まいがある都道府県の住宅補助金は、県ごとの一覧から市町村の制度まで探せます。

耐震診断営業から工事受注への難しさ

地方で耐震診断営業を展開する工務店の多くが直面する課題は、「診断受注」と「改修工事受注」の間に大きなギャップが存在することです。診断費用が無料または低額のため診断申込は進みますが、診断結果が「耐震性が低い」と判明しても、その後の改修工事の契約に進まない例が少なくありません。

この理由は、診断結果を提示する段階で、工務店が顧客の心理的障壁を乗り越える説明を十分に行っていないからです。木造住宅の診断結果の「上部構造評点」(1.0未満は倒壊する可能性がある、0.7未満は倒壊する可能性が高い)といった技術用語を淡々と説明するだけでは、高齢者層には響きません。代わりに「あなたの家が地震時にどのような被害を受ける可能性があるか」を具体的かつ視覚的に示し、「改修することでそれがどう変わるか」を示すことが重要です。

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工務店が取るべき営業戦略と提案設計

減災化リフォームをセットで提案する

耐震化率が進まない地方において、工務店が工夫すべき点は「耐震改修単体ではなく、減災化リフォームとセットで提案する」ことです。例えば、以下のような複合提案が有効です。

  • 耐震改修:基礎補強、筋かい補強、接合部補強
  • 減災化リフォーム:天井の耐震補強、照明器具や家具の転倒防止工事、ブロック塀の撤去・フェンス交換
  • 利便性向上工事:手摺り設置、段差解消、バリアフリー改修

このように組み合わせることで、高齢者層にも「地震対策と同時に生活利便性が向上する」という実感を与えることができます。

資金計画と補助制度の活用提案

既存住宅の改修工事において、顧客の最大の関心事は「お金」です。工務店が提案段階で、以下の情報を一式で提供することが重要です。

  • 各自治体の耐震改修補助金の有無と金額
  • 耐震改修の税の特例(昭和56年(1981年)5月31日以前に建てられた住宅を現行の耐震基準に合わせる改修で、所得税の特別控除〔令和10年12月31日までの改修が対象・国税庁 No.1222〕や固定資産税の減額)
  • 複数回払いやリフォームローンの活用方法
  • 着工から竣工までの資金計画表

地方自治体によっては、耐震改修工事の費用を補助する制度があります。補助の割合と上限は自治体ごとに違うため、住まいの市区町村の窓口で確かめてください。また、耐震改修を含む一定の改修工事を実施した場合、所得税の特別控除が受けられる制度も活用できます。これらの情報を診断結果とセットで提示することで、顧客の心理的ハードルを大幅に低下させることができます。

高齢者層への相談・説得プロセスの工夫

地方で高齢化が進む中、工務店の営業担当者が高齢者層と信頼関係を構築する方法も工夫が必要です。以下の点を意識することが有効です。

  • 複数回訪問:初回訪問で即座に工事を勧めるのではなく、診断結果の説明と相談を分けて複数回訪問する
  • 家族同席の提案:離れて暮らす子ども世代にも情報を共有し、世代を超えた判断をサポートする
  • 施工事例の視覚化:実際の改修前後の写真や動画を示し、具体的なイメージを与える
  • 小規模工事からのステップアップ:まず減災化工事(20~50万円程度)から着手し、次年度以降に本格的な耐震改修を検討する段階的提案

地方の住宅課題への長期的な取り組み

自宅で住まいの相談をするシニアの夫婦
自宅で住まいの相談をするシニアの夫婦(イメージ)

耐震診断営業の継続と啓発活動

耐震化が進まない地方においては、一度の営業活動では工事受注に至らないケースが大多数です。工務店が取るべき戦略は「長期的な顧客育成」です。毎年、自治体と連携した耐震診断キャンペーン、地域の自治会向けセミナー開催、チラシ配布などを継続的に実施することで、時間をかけて顧客の防災意識を高めることが重要です。

また、地震発生のニュースが報道される時期(毎年4月の熊本地震の日、9月の防災の日など)を機に、既存顧客への「耐震改修のご相談」という定期的な提案を行うことも効果的です。

補助金制度との組み合わせ

地方自治体の中には、耐震改修工事の促進を重要な政策課題と位置づけている地域もあります。工務店が自治体の補助金制度を積極的に活用し、その情報を顧客に丁寧に説明することで、資金面での障壁を低下させることができます。令和8年度(2026年度)時点で、多くの自治体が耐震改修補助金を継続しているため、これらの制度設計を営業ツールとして組み込むことが必須です。

よくある質問

Q1. 地方の耐震改修工事で補助金を活用する際、どのような申請手続きが必要ですか?

各自治体の補助制度によって異なりますが、一般的には耐震診断結果、改修計画書、見積書の提出が必須です。事前相談で条件確認後、工事着工前の申請が求められます。自治体の建築課に相談し、対象工事や補助率を確認してから進めることが重要です。

Q2. 高齢者向けの耐震改修工事で工事中の生活環境配慮は何が必要ですか?

工程表の事前説明、仮設トイレ設置、騒音・粉塵対策が基本です。高齢者向けには段階施工や夜間工事の回避も検討し、定期的に進捗を報告してください。転居が難しい場合は部分工事など柔軟な対応が信頼構築のポイントになります。

Q3. 耐震改修工事の資金計画で融資制度の活用方法を教えてください。

住宅金融支援機構のリフォームローンや自治体の融資制度が利用できます。工事金額、補助金額、融資条件を整理した提案資料を顧客に提供することが重要です。事前に金融機関との相談窓口を案内し、資金計画の透明性を確保しましょう。

Q4. 地方の空き家耐震化で採算性を確保するにはどう対応すべき?

工事規模の適正化と原価管理が鍵です。診断結果から優先順位をつけ、必須工事に絞る提案が有効です。また複数案件の効率化や、地域内での連続施工で移動コストを削減することで採算改善が期待できます。

Q5. 耐震改修工事で施工後のトラブルを防ぐため、どのような検査体制が必要?

木造住宅の耐震改修は、多くの場合、建築確認や中間検査の対象になりません(2025年4月からは木造2階建てなどの大規模な修繕・模様替えで確認が要るようになったため、工事の内容で確かめてください)。補助金を使う場合は、自治体の完了検査や写真の提出が条件になるのが一般的です。さらに自社による品質管理チェックリスト運用、写真記録の徹底、竣工後の定期点検案内も効果的です。顧客との打ち合わせ記録を残し、後々のトラブル回避に備えることが大切です。

まとめ

住宅の基礎に手を当てて点検する作業員
住宅の基礎に手を当てて点検する作業員(イメージ)

耐震化が進まない地方の現実は、単なる防災意識の欠如ではなく、高齢化と経済環境、資金負担の構造的な課題が複合的に作用していることをお伝えしました。工務店が既存住宅の改修工事を成功させるためには、耐震改修単体ではなく減災化リフォームや利便性向上とのセット提案が有効であり、補助金制度や税制優遇の活用情報を提供することで顧客の心理的ハードルを下げることができます。また、高齢者層に対しては複数回の丁寧な相談プロセスと、段階的な工事提案が信頼構築につながります。これまで「耐震工事が受注につながらない」とお悩みだった工務店・リフォーム会社は、まずは診断結果説明時に減災化リフォームとの複合提案資料を用意することから始めましょう。

出典:国土交通省「住宅の耐震化率(全国)」・国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」(確認日 2026-10-04)

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この記事を書いた人

建設業許可(一般・特定)の新規取得・更新・業種追加から変更届・廃業届まで幅広い申請実務に精通した許可申請の専門家。国土交通省の法改正情報を継続的に追跡し、都道府県ごとの審査基準の違いや落とし穴を解説。経営事項審査(経審)・入札参加資格・財産的基礎要件の確認方法など、中小建設会社が直面する許可維持の課題に対応した情報を提供している。

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