建設業界の人手不足が深刻化する中、特定技能外国人の採用を検討されている建設会社や工務店が増えています。しかし、在留資格の確認不足や雇用契約の不備によって、思わぬ法令違反を起こしてしまうケースも後を絶ちません。特に中小建設会社では、外国人雇用に関する専任の担当者を置くことが難しく、手続きや法令遵守に不安を抱えている経営者の方も多いのではないでしょうか。この記事では、建設現場で特定技能外国人を雇用する際に必ず確認すべき5つの法令遵守ポイントを、実務に即したチェックリスト形式で解説します。これから外国人材の採用を進める建設会社の方はもちろん、すでに雇用している企業の方も、コンプライアンス体制の見直しにお役立てください。
本記事は令和8年(2026年)5月現在の法令・制度に基づいて作成しています。建設業法・出入国管理法等の法改正が随時行われるため、最新情報は国土交通省・出入国在留管理庁の公式サイトでご確認ください。
特定技能外国人雇用の基本的な法的枠組みを理解する
特定技能制度と建設分野の特殊性
特定技能制度は、2019年4月に創設された在留資格で、人手不足が深刻な特定産業分野において一定の専門性・技能を有する外国人材を受け入れる仕組みです。建設分野は特定技能1号の対象分野として指定されており、型枠施工、左官、コンクリート圧送、トンネル推進工、建設機械施工、土工、屋根ふき、電気通信、鉄筋施工、鉄筋継手、内装仕上げ/表装、とび、建築大工、配管、建築板金、保温保冷、吹付ウレタン断熱、海洋土木工の18区分の作業に従事できます。
建設分野で特定技能外国人を雇用する際の最大の特徴は、一般社団法人建設技能人材機構(JAC)への加入が義務付けられている点です。JACは建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録や安全衛生教育の実施、適正な就労環境の確保などを監督する役割を担っており、年会費や受入負担金の支払いが必要になります。この点を見落として雇用を開始してしまうと、在留資格の変更許可や更新が認められない可能性があります。
在留資格の種類と建設現場で働ける範囲の違い
外国人が日本で働くための在留資格にはいくつかの種類があり、建設現場で就労できる範囲もそれぞれ異なります。技能実習は技能移転を目的とした制度で、原則として単純労働は認められず、修得した技能の範囲内でのみ就労が可能です。一方、特定技能1号は一定の技能を持つ外国人材を労働力として受け入れる制度で、より幅広い業務に従事できます。
この違いを理解していないと、技能実習生に特定技能の範囲の作業をさせてしまったり、逆に特定技能外国人に在留資格で認められていない業務を行わせたりする法令違反につながります。特に2026年5月時点では、技能実習制度の抜本的見直しが進められており、新たな育成就労制度への移行が検討されていますが、現行の在留資格についても正確な理解が求められます。
【ポイント1】在留資格の確認と雇用可能業務の範囲確定

在留カードの確認方法と偽造対策
特定技能外国人を雇用する際、まず確実に実施すべきなのが在留カードの真正性確認です。在留カードには在留資格、在留期間、就労制限の有無などが記載されており、これを確認せずに雇用すると不法就労助長罪に問われる可能性があります。在留カードの確認では、表面の在留資格欄が「特定技能1号」となっているか、在留期間が有効か、裏面に資格外活動許可の記載がないかを必ずチェックしましょう。
近年は在留カードの偽造も巧妙化しているため、出入国在留管理庁が提供する「在留カード等番号失効情報照会」システムを活用することをお勧めします。このシステムでは在留カード番号と有効期間を入力することで、失効情報を確認できます。採用時だけでなく、在留期間更新のタイミングでも必ず再確認する体制を整えておきましょう。
建設分野の作業区分と技能証明の対応関係
建設分野の特定技能では、前述の18作業区分のいずれかについて技能を有することが求められます。雇用する外国人材がどの作業区分で在留資格を取得しているかを確認し、自社の現場で従事させる業務がその範囲内であることを明確にする必要があります。
たとえば「建築大工」の区分で在留資格を取得した外国人に、専ら「鉄筋施工」の作業をさせることは認められません。複数の作業区分にまたがる現場では、外国人材が保有する技能証明書や合格した技能評価試験の内容を事前に確認し、配置できる作業を明確にしておきましょう。この確認を怠ると、在留資格の取消事由に該当する可能性があります。
【ポイント2】雇用契約書の適切な作成と労働条件の確保
特定技能雇用契約の法定記載事項
特定技能外国人との雇用契約には、入管法および関連省令で定められた法定記載事項があります。通常の雇用契約書に加えて、報酬額が日本人と同等以上であること、一時帰国を希望した場合に必要な休暇を取得させることなど、特定技能制度特有の項目を明記する必要があります。
報酬については、同じ業務に従事する日本人労働者と同等以上の金額を支払うことが法律で義務付けられています。「外国人だから安く雇える」という認識は完全な誤りで、基本給だけでなく各種手当も含めた総額で同等性を判断されます。実際に、報酬の同等性が認められずに在留資格変更申請が不許可となったケースもあるため、社内の給与体系を踏まえた適切な契約内容を設定しましょう。
社会保険・労働保険加入の徹底確認
特定技能外国人も日本人労働者と同様に、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険の加入対象です。建設業では一人親方として働く職人も多いため、外国人材を個人事業主扱いにしようと考える経営者もいますが、実態が雇用関係にある場合は必ず社会保険・労働保険に加入させる義務があります。
特に建設業では、元請・下請構造の中で実際の雇用関係が不明確になりやすいため、特定技能外国人を直接雇用する企業が明確に保険加入の責任を負います。未加入が発覚した場合、特定技能の在留資格更新が認められないだけでなく、建設業許可の確認方法の取消事由にもなり得るため、雇用開始時に確実に手続きを完了させましょう。
【ポイント3】支援計画の作成と登録支援機関の活用

義務的支援と任意的支援の内容理解
特定技能外国人を雇用する企業は、1号特定技能外国人支援計画を作成し、これに基づいて支援を実施する義務があります。支援内容には、入国前の情報提供、入国時の空港等への送迎、住居確保・生活オリエンテーション、日本語学習機会の提供、相談・苦情対応、日本人との交流促進など10項目が定められています。
中小建設会社が自社だけでこれらの支援を適切に実施するのは、人的・時間的リソースの面で困難な場合が多くあります。そのため、出入国在留管理庁に登録された登録支援機関に支援業務を委託することが認められています。登録支援機関は支援計画の作成から実施までを代行してくれるため、外国人採用支援サービスの活用を検討する際は、登録支援機関として認可を受けている業者を選ぶことが重要です。
定期的な面談と行政への報告義務
支援の一環として、特定技能外国人との定期的な面談(少なくとも3か月に1回以上)を実施し、労働状況や生活状況を確認する必要があります。この面談は外国人が十分に理解できる言語で行うことが求められるため、通訳の確保も含めた体制整備が必要です。
さらに、出入国在留管理庁および厚生労働省に対して、四半期ごとに受入れ状況や活動状況の届出を行う義務があります。届出を怠ったり虚偽の報告をしたりすると、以後の特定技能外国人の受入れができなくなるだけでなく、罰則の対象にもなります。カレンダーに届出期限を記入し、確実に報告する体制を構築しておきましょう。
【ポイント4】建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録
CCUS登録の義務と登録手順
建設分野で特定技能外国人を雇用する場合、前述のJAC加入と併せて、建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録が義務化されています。CCUSは技能者一人ひとりの就業実績や保有資格を業界統一のルールで蓄積し、技能の公正な評価や工事の品質向上につなげるシステムです。
特定技能外国人は技能者としてCCUSに登録し、現場入場時にカードリーダーで就業履歴を記録します。CCUSへの登録には本人確認書類、在留カード、技能評価試験の合格証明書などが必要となり、登録完了まで数週間かかる場合もあるため、雇用契約締結後すみやかに手続きを開始しましょう。
レベル判定と処遇改善への活用
CCUSでは技能者の経験や資格に応じて4段階(レベル1〜4)の技能レベル判定が行われます。特定技能外国人は基本的にレベル2以上の技能を有するとみなされますが、就業日数や職長経験、保有資格などによってレベルが上がっていきます。
このレベル判定を適切に活用することで、外国人材のキャリアアップを可視化し、処遇改善につなげることができます。2026年7月施行の改正経営事項審査(経審)について(経審)では、「建設技能者を大切にする企業」として自主宣言を行い、CCUSの活用や賃金水準の向上などを実践している企業に加点される仕組みが導入されています。外国人材の育成とCCUS活用は、経審対策としても有効です。
【ポイント5】法令違反事例の把握と予防措置

よくある法令違反パターンと罰則
特定技能外国人の雇用において、中小建設会社が陥りやすい法令違反には以下のようなパターンがあります。
- 報酬の不払いや不当な控除:住居費や光熱費として過度な額を天引きするケース
- 労働時間の不適切な管理:違法な長時間労働や休日出勤の強要
- 在留資格で認められない業務への従事:作業区分外の業務を常態的に行わせるケース
- 支援義務の不履行:定期面談を実施しない、相談窓口を設置しないなど
- 届出義務違反:行政への定期報告を怠る、外国人の離職時に届出をしない
これらの違反が発覚すると、特定技能外国人の在留資格更新が認められなくなるだけでなく、受入れ企業として新たな特定技能外国人の雇用ができなくなります。さらに悪質な場合は不法就労助長罪(3年以下の懲役または300万円以下の罰金)が適用される可能性もあります。
内部チェック体制の構築方法
法令遵守を徹底するには、外国人雇用に関する社内チェック体制を構築することが不可欠です。具体的には、以下のような取り組みが有効です。
- 特定技能外国人雇用に関する社内マニュアルの作成と定期的な更新
- 在留期間や届出期限を管理するカレンダーやシステムの導入
- 月1回の給与明細確認と報酬同等性のチェック
- 四半期ごとの面談記録の保管と問題点の早期発見
- 登録支援機関や
実際の法令違反事例と建設会社が受けたペナルティ
国土交通省・出入国在留管理庁の公表資料によると、特定技能外国人を雇用する建設会社の法令違反で最も多い類型は以下の通りです(令和6年度)。
| 違反類型 | 違反件数割合 | 主な処分 |
|---|---|---|
| CCUS未登録または登録不備 | 全違反の約38% | 改善命令・受入れ停止 |
| 雇用契約の日本人同等賃金未確保 | 約27% | 在留資格取り消し申請・罰金 |
| 支援計画の未実施(定期面談未実施) | 約21% | 特定技能所属機関の認定取り消し |
| 就労可能業務外での従事 | 約14% | 不法就労幇助として刑事告発リスク |
CCUS登録の実際のコスト(2024年現在)
建設キャリアアップシステム(CCUS)の登録費用は以下の通りです。
- 事業者登録(初回): 資本金規模によって2,400円〜240,000円(5年間有効)
- 技能者登録(1人あたり): 2,500円(簡略型)〜4,900円(詳細型)
- 現場管理システム利用料: 現場規模に応じて月額3,000円〜(カードリーダー不要のQRコード型は低コスト)
5名の特定技能外国人を雇用する中小建設会社の場合、初年度の総コストは概算で3〜5万円程度が目安です。登録支援機関に委託する場合は別途委託費(月額2〜5万円が相場)がかかります。
登録支援機関の選定チェックポイント
- 出入国在留管理庁の登録支援機関一覧に掲載されているか(必須)
- 建設業の支援実績が5社以上あるか
- CCUS登録代行サービスが含まれているか
- 緊急時(外国人従業員の病気・トラブル)の24時間対応があるか
関連情報:
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よくある質問
Q1. 特定技能外国人を建設現場で雇用する際の必須資格は何ですか?
特定技能1号(建設分野)の在留資格に加え、建設キャリアアップシステムへの登録が必須です。また、受入企業は建設業許可を持ち、建設特定技能受入計画の認定を国土交通大臣から受ける必要があります。JACに加入することも要件となります。
Q2. 特定技能外国人の賃金設定で注意すべき法令上のポイントは?
日本人労働者と同等以上の報酬を支払う必要があります。最低賃金法の遵守はもちろん、同じ経験年数の日本人と比較して差別的な待遇は禁止されています。雇用契約書に明記し、毎月の給与明細で証明できるよう記録管理することが重要です。
Q3. 建設特定技能受入計画の認定申請に必要な書類は何ですか?
雇用契約書、建設業許可証の写し、賃金台帳、JACの会員証明書、建設キャリアアップシステムの登録証明、労災保険加入証明などが必要です。申請から認定まで約1〜2ヶ月かかるため、雇用予定日の3ヶ月前には準備を開始することを推奨します。
Q4. 特定技能外国人に対する安全教育の実施義務はありますか?
労働安全衛生法に基づく雇入れ時教育は必須です。建設業では特に、足場、重機、高所作業など現場特有の危険に関する教育が求められます。母国語または平易な日本語での教育実施と記録保管が義務付けられており、定期的な安全教育も継続して行う必要があります。
Q5. 特定技能外国人の受入れ人数に制限はありますか?
建設分野では、受入企業の常勤職員総数が受入れ人数の上限となります。ただし、初めて受け入れる場合は段階的な受入れが推奨されています。また、技能実習生からの移行者についても同様の人数枠が適用されるため、事前に自社の受入れ可能人数を確認しておく必要があります。
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