入札価格の適正化や労務費ダンピング対策が厳格化される中、建設会社の経営者は「適正な利益を確保しながらどう競争力を維持するか」という課題に直面しています。公共工事でも、低い価格での入札への目が厳しくなり、適正な労務費を払うことが求められています。この状況下で注目されているのが「経営力向上計画」の申請です。本記事では、経営力向上計画が入札評価でどのように有利に働くのか、適正労務費の確保や社会保険加入義務、週休2日制との関連を含めて、建設会社が知るべき実務のポイントを解説します。制度を正しく理解し活用することで、コンプライアンス強化と経営基盤の安定化を同時に実現できます。
経営力向上計画とは何か?建設業における位置づけ
経営力向上計画の基本的な仕組み
経営力向上計画は、中小企業等経営強化法に基づき、事業者が人材育成、コスト管理、設備投資などを通じて経営力を向上させる計画を策定し、国の認定を受ける制度です。建設業においては、国土交通省が所管する業種として、施工管理の効率化、ICT活用、労働環境改善などを計画に盛り込むことができます。
認定を受けると、法人税の特別償却・税額控除や、日本政策金融公庫の融資・信用保証などの金融支援を使える場合があります。使える支援と条件は、中小企業庁の案内で確かめてください。
建設業特有の経営力向上計画活用のポイント
建設業では、他業種と異なり「適正な工期・労務費の確保」「社会保険の完全加入」「週休2日制の導入」といった業界特有の経営課題があります。経営力向上計画にこれらの取り組みを明記することで、税制の優遇を受けるだけでなく、会社の取り組みを整理して取引先に説明する材料にもなります(経営力向上計画の認定そのものは、経営事項審査の評価の項目ではありません)。
国土交通省が発注する公共工事の入札参加資格審査(経営事項審査)では、労働福祉の状況(W点)において建設業退職金共済制度への加入などが評価されます(社会保険の加入の審査項目は2026年7月の改正で外れました)。経営力向上計画で「社会保険加入率100%の維持」「週休2日制モデル工事への積極参加」などを目標に掲げ、実際に経審の W点で評価される取り組み(建退共への加入や、建設技能者を大切にする企業の自主宣言=2026年7月1日以降の申請から5点など)を進めることが、結果として点数につながります。
適正労務費とダンピング対策の関係性

労務費ダンピングが建設業に与える影響
労務費ダンピングとは、工事受注のために労務費を不当に低く見積もり、結果として現場労働者への賃金が適正水準を下回る状態を指します。この問題は、技能労働者の確保難、若年層の建設業離れ、品質低下といった業界全体の課題につながっています。
国土交通省は2024年の建設業法改正を踏まえ、適正労務費の支払い要請を強化しています。具体的には、公共工事の設計労務単価の引き上げ(2026年3月から適用の単価は全国全職種の単純平均で前年度比4.5%増・国土交通省 2026年2月発表)などが行われ、2025年12月からは、労務費を著しく低く見積もることや、それを求めることが改正建設業法で禁じられました。これにより、低価格で受注しても利益が出ない、あるいは法令違反のリスクを抱える構造になりつつあります。
経営力向上計画による「適正価格での受注力」強化
経営力向上計画の認定を受けている建設会社は、計画書の中で「適正な労務費の確保」「法定福利費の適切な計上」を明示しています。この実績は、発注者(特に公共発注者)に対して「この会社は法令を遵守し、持続可能な経営をしている」という客観的な証拠となります。
自治体の総合評価落札方式では、企業の取り組みを加点する評価の項目があります。どの取り組みが加点になるかは発注者ごとに違うため、入札に参加する自治体の評価の基準で確かめてください。経営力向上計画は、適正な労務費を確保しながら経営を見直す手段として役立ちます。
入札評価における具体的なメリット
経営事項審査(経審)との連動性
経営事項審査(経審)は、公共工事の入札参加資格を得るための必須評価制度です。経審では、経営状況(Y点)、経営規模(X点)、技術力(Z点)、その他の審査項目(W点)の総合評価で企業を格付けします。
経営力向上計画は、直接的に経審の点数に加算される項目ではありませんが、計画に基づく設備投資や人材育成により、経営状況の改善(Y点の向上)や技術職員の増加(Z点の向上)につながります。
総合評価落札方式での優位性
近年、公共工事では価格だけでなく技術力や企業の信頼性を総合的に評価する「総合評価落札方式」が主流です。この方式では、施工実績、配置予定技術者の経験、企業の働き方改革への取り組みなどが評価項目となります。
経営力向上計画を策定している企業は、以下の点で評価される可能性が高まります。
- 働き方改革への取り組み実績:週休2日制の導入計画と実績
- ICT活用による生産性向上:施工管理システムの導入など
- 社会保険加入と労働環境改善:法定福利費の適切な計上実績
特に国土交通省直轄工事や都道府県発注工事では、週休2日制促進工事(週休2日を達成すると労務費等が割増される制度)の考え方は発注者ごとに違うため、入札の案内で評価の項目を確かめます。
社会保険加入義務・週休2日制との統合戦略

社会保険加入義務の完全履行が前提条件に
建設業法では、2020年10月から社会保険(雇用保険、健康保険、厚生年金保険)への加入が建設業許可の要件となっています。2026年現在、未加入企業は許可更新ができず、下請企業として選定されることも困難な状況です。
経営力向上計画では、「社会保険加入率100%の維持」「法定福利費の適正な見積計上と支払い」を目標に掲げることが推奨されます。この記載により、発注者や元請企業に対して法令遵守企業であることをアピールでき、継続的な受注につながります。
週休2日制導入と適正労務費の両立
建設業界では2024年4月から時間外労働の上限規制が適用され、週休2日制の導入が急務となっています。しかし、工期の制約や人手不足から、実現には適正な工期と労務費の確保が不可欠です。
経営力向上計画に「週休2日制の段階的導入」を盛り込み、働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)と組み合わせることで、導入コストの一部を補助金でカバーできます。助成金は、労務管理機器の導入費用や就業規則の作成費用などが対象となり、上限額はコースと年度ごとに決まるので、厚生労働省の最新の案内で確かめます。
さらに、週休2日制モデル工事に参加し実績を積むことで、発注者によっては、週休2日の達成に応じて労務費などを補正する仕組みがあります(率は発注者の決まりで確かめます)。経営力向上計画でこの取り組みを体系的に整理することで、持続可能な経営モデルを構築できます。
取引先や下請の会社が建設業許可を持っているかは、全国の建設業許可業者を業種や地域から調べられる建設業許可データベースの企業検索で確かめられます。
よくある質問
Q1. 経営力向上計画の認定で労務費ダンピング対策に有利になる理由は?
経営力向上計画の認定が公共工事の入札で加点になるかは、発注者の評価の基準によります。計画に沿った人材育成や賃金の改善の取り組みは、総合評価で評価される項目と重なることもあるため、発注者の基準とあわせて確かめておきましょう。
Q2. 適正労務費とは具体的に何を指しますか?
適正労務費とは、設計労務単価に基づき、社会保険料、法定福利費、技能者の経験年数に応じた適切な賃金水準を反映した労務費です。国土交通省が公表する設計労務単価を下回らない水準で、技能者に適正に支払われる賃金総額を指します。
Q3. 経営力向上計画に労務費管理をどう記載すればよい?
計画書の「現状認識」に現在の労務費管理の課題を記載し、「目標」に適正労務費の確保率や社会保険加入率100%などを設定します。「実施事項」には賃金台帳のデジタル化、労務費内訳の明確化、技能者育成計画などを具体的に記載することが重要です。
Q4. 労務費ダンピング対策で建設会社が受ける審査内容は?
公共工事では、下請契約における労務費相当額の内訳明示、社会保険等の加入状況、技能者に払った賃金などを確かめられることがあります。賃金台帳、契約書、支払証明書の提出を求められ、不適切な場合は指名停止等の措置を受ける可能性があります。
Q5. 経営力向上計画認定後の労務費管理で注意すべき点は?
計画に記載した労務費管理目標の達成状況を定期的に記録し、計画の期間(3〜5年)の間、取り組みの記録を残しておきます。特に技能者への支払実績、社会保険加入状況、賃金改善率は証拠書類とともに保管し、入札時や行政調査で即座に提示できる体制を整えましょう。
まとめ

経営力向上計画は、単なる税制優遇の手段ではなく、建設会社が適正労務費を確保しながら入札競争力を高めるための戦略的ツールです。本記事のポイントは次の3点です。第一に、経営力向上計画は税制や金融の支援を受ける入り口で、入札の点数そのものは経審の W点など別の仕組みで決まること。第二に、適正労務費の支払い実績と社会保険加入義務の完全履行を計画に明示することで、発注者からの信頼を獲得できること。第三に、週休2日制導入などの働き方改革と助成金活用を組み合わせることで、コスト負担を抑えながら経営基盤を強化できることです。労務費ダンピングが通用しない時代だからこそ、経営力向上計画を活用して「適正価格で選ばれる企業」への転換を図りましょう。まずは自社の経営課題を整理し、経営力向上計画の策定から始めてみてください。
出典と参考(2026年10月1日に確認)
- 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」
- 国土交通省 関東地方整備局「経営事項審査制度の概要について」
- 中小企業庁「経営力向上計画の申請について」
- 国土交通省「建設業における社会保険加入対策について」
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