資材や人件費が上がり続けるなか、「見積りを出し直したいが、施主にどう伝えればよいか分からない」という工務店・リフォーム会社の経営者は少なくありません。値上げの話は、伝える時期と根拠で受け止められ方が大きく変わります。2024年12月13日に施行された改正建設業法では、資材の高騰などのおそれを契約を結ぶまでに注文者へ伝える決まりができました。本記事では、民間の施主(家や店の持ち主)に値上げを説明するときに、物価資料や国の公表をどう根拠に使うか、説明の順番と、施主に渡す1枚の見本をまとめます。
なぜ「契約の前」に伝えるのか
2024年12月13日に施行された改正建設業法で、受注者は、資材の価格の高騰など、工期や請負代金の額に影響する事象が起きる「おそれ」があると認めるときは、契約を結ぶまでに注文者へその旨と判断の根拠になる情報を通知することになりました(建設業法第20条の2第2項)。
通知した事象が契約の後に実際に起きたときは、受注者は請負代金の額や工期の変更について協議を申し出ることができ、注文者は誠実に協議に応じるよう努めることとされています(同条第3項)。また、同じ改正で、請負契約書に「価格等の変動若しくは変更に基づく工事内容の変更又は請負代金の額の変更及びその額の算定方法に関する定め」を書くことがはっきりしました(第19条)。
つまり、値上げの話は「上がってから切り出す」のではなく、契約の前に、おそれと根拠を書面で伝えておくことが出発点になります。契約の前に知らされていれば、施主も予算の幅を考えたうえで判断できます。
説明に使う根拠は4種類
施主に「なぜ上がるのか」を伝えるときは、会社の感覚ではなく、外から確かめられる数字を根拠にします。主な根拠は次の4つです。
| 根拠 | 何が分かるか | 出す人・費用 |
|---|---|---|
| 物価資料(月刊「建設物価」・月刊「積算資料」など) | 個々の資材の、地域ごとの今の値段 | 建設物価調査会・経済調査会(有料) |
| 公共工事設計労務単価 | 職種ごとの人件費の基準の動き(年1回) | 国土交通省(無料) |
| 建設工事費デフレーター | 工事費全体の値動き(毎月) | 国土交通省(無料) |
| 企業物価指数 | 企業の間で売り買いする物の値段の大まかな動き(毎月) | 日本銀行(無料) |
たとえば公共工事設計労務単価は、2026年3月から使う単価で、全国全職種の単純平均が前年度より4.5%上がり、加重平均は25,834円と、2013年度の改定から14年続けて上がりました。ただし、これは公共工事の積算に使う設計の単価で、下請に払う賃金の下限を決めたものではありません。施主には「人件費の基準が国の公表で毎年上がっている」という流れを伝える材料として使います。
物価資料は、国や自治体も積算の単価を決めるときの材料にしています。個々の資材の値上がりを示すときは、物価資料の該当する号と品目を控えておき、「何月号のこの品目が、前の見積りの時点からどれだけ動いたか」を説明できるようにしておくと伝わりやすくなります。
施主に説明する3つの順番
1. 契約の前:おそれと根拠を書面で伝える
見積りを出すときに、値上がりのおそれがある資材や工程と、その根拠(物価資料の号と品目・労務単価・デフレーターの動き)を書面で渡します。口頭だけで伝えると、後で「聞いていない」となりがちです。
2. 契約書:変更の方法と算定方法を書く
請負契約書に、価格が変わったときに代金をどう見直すか(どの資料の値を使い、いつの時点と比べ、どう計算するか)を書きます。施主にとっても、上がる場合だけでなく、下がった場合の扱いも書いてあると公平に受け止めてもらいやすくなります。
3. 実際に上がったら:根拠を添えて協議を申し出る
契約の後に通知したとおりの値上がりが起きたら、比べた資料の写しや計算の過程を添えて、変更の協議を申し出ます。協議は申し出ることができるもので、必ず増額できるわけではありません。施主と話し合い、工事の内容や仕様の見直しも含めて落としどころを探します。
施主に渡す1枚の見本
契約の前に渡す書面の見本です。会社の実情に合わせて、項目と言葉を直してお使いください。
工事の費用が変わる可能性についてのお知らせ(見本)
〇〇様
〇〇工事(見積番号〇〇)について、契約の前にお知らせします。
1. 費用が変わる可能性があるもの
・〇〇(例:構造用合板・断熱材)の材料費
・〇〇(例:大工・内装)の工事の手間代
2. そう考える根拠
・〇〇(物価資料の名前と号)の〇〇(品目)の値が、〇年〇月から〇年〇月までに〇%動いています
・国土交通省の公共工事設計労務単価(〇年〇月から適用)が前年度から上がっています
3. 変わったときの見直しの方法
・〇〇(資料の名前)の〇月号の値と、発注の時点の値を比べ、差額を〇〇の方法で計算します
・値が下がった場合も、同じ方法で見直します
4. ご相談
・見直しが要るときは、根拠の資料を添えてご相談します。仕様の変更など、費用を抑える方法もあわせてご提案します。
見本の〇〇には、実際に確かめた資料の名前・号・値を入れます。物価資料の誌面をそのまま写して配るのではなく、自社で確かめた値と出どころを書くようにします(購読の決まりの範囲で使ってください)。
説明で気をつけること
- 「必ず上がる」と言い切らない:伝えるのは「おそれ」と根拠です。上がり方は時期と品目で変わります
- 根拠の日付をそろえる:比べる2つの時点と、使った資料の号をはっきり書きます
- 公共工事と分けて考える:公共工事の資材高騰分の扱いは、発注者の約款のスライド条項によります。民間の工事は契約書に書いた方法が基本です
- 労務単価を賃金の約束と混同しない:公共工事設計労務単価は設計の単価で、職人に払う賃金を決めたものではありません
よくある質問
Q1. 契約の前に「おそれ」を伝えないと、どうなりますか?
建設業法第20条の2第2項で、受注者は契約を結ぶまでにおそれと根拠を通知することになっています。伝えていない事象を理由に、契約の後で増額の協議を持ち出すと、施主の納得を得にくくなります。見積りの段階で書面にしておくのが確実です。
Q2. 通知しておけば、値上がりした分は必ず払ってもらえますか?
必ずではありません。通知した事象が実際に起きたときに、変更の協議を申し出ることができ、注文者は誠実に協議に応じるよう努めることとされています(同条第3項)。どこまで見直すかは施主との協議と、契約書に書いた算定方法によります。
Q3. 物価資料を持っていない場合、何を根拠にすればよいですか?
国が無料で公表している公共工事設計労務単価、建設工事費デフレーター、日本銀行の企業物価指数で、人件費や工事費全体の値動きを示せます。個々の資材の値段は、仕入れ先の見積書や請求書の推移も根拠になります。
Q4. 値上がりではなく値下がりしたときはどうしますか?
契約書に書いた算定方法のとおりに見直します。上がる場合だけでなく下がる場合も同じ方法で扱うと書いておくと、施主に公平な決まりとして受け止めてもらいやすくなります。
まとめ
値上げを施主に説明するときの要点は、①契約の前に、値上がりのおそれと根拠を書面で伝える、②契約書に変更の方法と算定方法を書く、③実際に上がったら根拠を添えて協議を申し出る、の3つです。根拠には、物価資料の号と品目、公共工事設計労務単価、建設工事費デフレーター、企業物価指数のように、外から確かめられる数字を使います。まずは、いま出している見積書に、値上がりのおそれと根拠を書いた1枚を添えるところから始めてみてください。
見積りの相手や協力会社を探すときは、全国の建設業許可業者を業種や地域から調べられる建設業許可データベースの企業検索もお使いください。
出典:国土交通省「建設業法・入契法の改正について」・国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価」・国土交通省「建設工事費デフレーター」・建設業法(e-Gov 法令検索)(確認日 2026-10-02)
この記事は一般的な情報をまとめたものです。法令や制度は変わることがあるため、最新の内容は公表元で確認し、個別の判断は窓口の役所や専門家(行政書士・弁護士など)に相談してください。
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