建設業許可の申請で事実と違う書類を出すことは、単なる事務の誤りでは済みません。建設業法の罰則の対象になり、許可の取消しや、役員が欠格要件に当たることにもつながります。福岡県では、働いていない人の名義で役員や技術者の証明書を出した建設会社の社長らが、2026年9月に有罪の判決を受けました。本記事では、この事例と建設業法の条文をもとに、建設業許可申請での虚偽の申請の罰則、欠格要件の正しい範囲、法人化や外国人の雇用で気をつける点、電子申請(JCIP)と申請前の確認のしかたを、建設会社の経営者向けに整理します。
福岡の虚偽申請事件に見る建設業許可の重大性
実際に起きた事件の概要
TNCテレビ西日本(2026年4月30日)などの報道によると、福岡県大任町の建設会社は、2023年6月に一般建設業の許可を申請した際、働いている実態のない70代の男性2人の名義で「常勤役員等証明書」と「専任技術者証明書」を作り、県に提出して同年8月に許可を受けました。いわゆる名義貸しです。名義を貸した70代の2人には、会社から年に約100万円の報酬が支払われていたとみられると報じられています(KBC九州朝日放送 2026年4月30日)。
会社の社長と、書類を作った元行政書士の2人は2026年4月に逮捕され、名義を貸した2人も書類送検されました。福岡地方裁判所は2026年9月9日、社長ら2人に建設業法違反で懲役1年・執行猶予3年の判決を言い渡しました。報道では、判決が確定すると会社の許可は取り消される見通しとされています。
虚偽の申請に科される罰則と処分
許可申請書やその添付書類にうその記載をして出すと、6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象です(建設業法第50条第1項第1号)。情状により、拘禁刑と罰金をあわせて科されることもあります(同条第2項)。社員が会社の業務として行ったときは、行為をした人のほか、会社にも罰金が科されます(第53条)。
刑事罰とは別に、許可にも次の影響が出ます。
- 許可の取消し:不正の手段で許可を受けたときは、許可は取り消されます(第29条第1項第7号)
- 5年間は許可を受けられない:不正の手段を理由に取り消されると、取消しの日から5年間は許可を受け直せません(第8条第2号)
- 役員等の営業の禁止:取消しのときの役員等は、5年間、同じ建設業を新たに始めることを禁止されます(第29条の4第2項)
- 役員が欠格要件に当たる:役員が拘禁刑以上の刑(2025年6月より前の懲役・禁錮を含む)や、建設業法違反の罰金刑に処せられると、欠格要件に当たります(第8条第7号・第8号)。その人が役員を務める別の会社の許可も、取消しの対象になります(第8条第12号・第29条第1項第2号)
処分は公告され(第29条の5)、国土交通省の「ネガティブ情報等検索サイト」などで誰でも調べられます。取引先や金融機関にも知られることになります。
書類の中身は確かめられている
許可の申請では、常勤役員等や営業所技術者(以前の呼び方は専任技術者)が本当にその会社に常勤していること、経験や資格があることを示す書類の提出が求められます。許可を受けた後も、変更の届出や毎年の決算変更届、5年ごとの更新の申請のたびに、内容を確かめられます。名義だけの人を立てると、書類の上でも実態との食い違いが残り続けます。「一度通れば終わり」ではないことを押さえておきましょう。
建設業許可の欠格要件と一人親方が注意すべき法令遵守

許可申請時に確認すべき欠格要件
許可を受けられない条件(欠格要件)は建設業法第8条に定められています。対象は、申請する会社や個人事業主、役員等、令3条の使用人(支配人や、支店・営業所の代表者)です。申請のときは、これらの人が欠格要件に当たらないことを誓約する書面を出します(第6条第1項第4号)。主な欠格要件は次のとおりです。
- 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者(第1号):復権すれば当たりません。「破産から5年」のような待つ期間はありません
- 不正の手段などで許可を取り消され、5年を経過しない者(第2号)
- 拘禁刑以上の刑に処せられ、刑の執行を終わった日などから5年を経過しない者(第7号):罪の種類は問いません
- 決められた法令・罪で罰金刑に処せられ、5年を経過しない者(第8号):建設業法、政令で定める建設・労働関係の法令、暴力団対策法の違反や、刑法の傷害・暴行・脅迫・背任などの罪が対象です
- 暴力団員、または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(第9号)
- 心身の故障により建設業を適正に営むことができない者(第10号)
「成年被後見人・被保佐人」は2019年の法改正で欠格要件から外れ、いまは第10号で個別に判断されます。詐欺罪や横領罪には罰金刑がなく、「詐欺で罰金刑」という欠格要件はありません。5年の数え始めは、罪を犯した日や判決の日ではなく、刑の執行を終わった日などです。
欠格要件の詳しい内容は「建設業許可取り消しの欠格事由とは?」でも解説しています。
一人親方が法人化する際の注意点
個人事業主として受けた許可は、法人を作っても自動では法人に引き継がれません。進め方は主に次の2つです。
- 法人で新しく許可を受ける:法人の役員等について、あらためて要件と欠格要件を確かめて申請します
- 事業の譲渡で許可を引き継ぐ:個人から法人へ建設業の全部を譲り渡す前に、許可行政庁の認可を受ければ、法人が建設業者の地位を引き継げます(第17条の2)。認可は譲渡の前に受ける必要があるため、早めに県の担当課へ相談します
どちらの場合も、法人の常勤役員等と営業所技術者に実際になる人を届け出ることが前提です。経験や資格が足りないからと、名前だけの役員や技術者を置くことはできません。要件を満たす人がいないときは、満たすまで待つか、要件を満たす人を実際に迎える必要があります。
申請書類を正しく作るための実務対応

名義貸しになりやすい場面
福岡の事例のように、常勤役員等や営業所技術者の要件を満たす人がいないとき、知人や親族の名前を借りたくなる場面があります。次のような人は、原則としてその会社に「常勤」しているとはいえません。
- ほかの会社で常勤の社員や役員として働いている人
- 会社の営業所から通えないほど遠くに住んでいる人
- 実際には会社の仕事をしておらず、報酬だけを受け取っている人
常勤かどうかの確かめ方や必要な書類は、都道府県ごとの手引きで決められています。迷うときは、申請の前に県の担当課に相談しましょう。
外国人作業員を雇うときの確認
外国人を雇うときは、在留カードの原本で在留資格と在留期間、就労の制限を確かめます。「建設」という名前の在留資格はありません。建設の現場で働く外国人の在留資格には「特定技能」(建設分野)などがあり、建設分野で特定技能の外国人を受け入れるには、国土交通大臣の「建設特定技能受入計画」の認定を受ける必要があります。
在留資格で認められていない仕事をさせると、事業主が不法就労助長罪(出入国管理及び難民認定法第73条の2)に問われることがあります。役員等がこの罪で拘禁刑に処せられると、建設業法の欠格要件(第8条第7号)に当たります。
電子申請システムの活用と虚偽申請防止の実務対策
建設業許可の電子申請システム(JCIP)
国土交通省の「建設業許可・経営事項審査電子申請システム(JCIP)」は2023年1月に始まり、インターネットで許可の申請や変更の届出ができます。使うにはデジタル庁の「gBizID」のアカウントが要ります。受け付ける手続きの範囲は都道府県ごとに案内されており、紙での申請も引き続き使えます。
電子申請でも、出す書類の中身と、うその記載が罰則の対象になることは紙の申請と同じです。電子だから確認が甘くなる、あるいは自動で見抜かれるから安心、ということではありません。書類を事実どおりに作ることが前提です。
虚偽申請を防ぐための事前チェックリスト
許可の申請(新規・更新)や変更の届出の前に、経営者と書類を作る人で次の点を確かめましょう。
役員等・技術者について:
- 常勤役員等と営業所技術者は、実際にその会社に常勤し、その仕事をしているか
- 営業所技術者の資格は、合格証明書や資格者証の原本で確かめたか
- 実務経験の証明は、工事の契約書や請求書など、事実を裏付ける書類とそろっているか
- 役員等と令3条の使用人の全員が、欠格要件に当たらないか(本人の申告と誓約で確かめる)
会社の書類について:
- 工事経歴書に書いた工事は、実際に請け負った工事か
- 決算変更届を毎年、事業年度の終わりから4か月以内に出しているか(第11条第2項)
- 役員等が変わったときの届出(30日以内・第11条第1項)や、営業所技術者が変わったときの届出(2週間以内・第11条第4項)を出しているか
書類を行政書士に頼む場合も、書類の中身に責任を持つのは申請する会社です。福岡県大任町の件(2026年4月)では、書類を作った元行政書士も一緒に逮捕されています(TNCテレビ西日本 2026年4月30日)。
よくある質問
Q1. 建設業許可申請で虚偽書類を提出するとどのような罰則がありますか?
許可申請書やその添付書類にうその記載をして出すと、6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象です(建設業法第50条第1項第1号)。会社にも罰金が科されます(第53条)。不正の手段で受けた許可は取り消され、取消しの日から5年間は許可を受け直せません(第29条第1項第7号・第8条第2号)。
Q2. 経営業務の管理を担う役員の経験はどう証明すればよいですか?
常勤役員等(以前の呼び方は経営業務管理責任者)の経験は、登記の記録や、工事の契約書・請求書などで裏付けます。必要な書類は都道府県の手引きで決められています。実際の経験より長い年数を書いてはいけません。不明な点は、申請の前に県の担当課に相談しましょう。
Q3. 技術者の資格要件で見落としやすい点は何ですか?
資格の種類が、許可を受ける業種に対応しているかを確かめます。実務経験で要件を満たす場合は、経験の年数と工事の内容を裏付ける書類が要ります。また、営業所技術者はその営業所に常勤し、専らその仕事をする人でなければなりません。ほかの会社との掛け持ちはできません。
Q4. 財務諸表の虚偽記載を疑われないようにするには?
税務申告をした決算書をもとに財務諸表を作り、数字を書き換えないことです。一般建設業では、自己資本が500万円以上あることや、500万円以上の資金を調達できることなどが財産の要件です。足りないときに数字を整えるのではなく、要件を満たしてから申請しましょう。
Q5. 許可申請の事前相談で確認すべき項目は何ですか?
常勤役員等と営業所技術者になる人が要件を満たすか、常勤を示す書類として何を出すか、財産の要件を満たすか、の3点が中心です。都道府県ごとに手引きや相談の窓口があるので、書類を作る前に確かめておくと、申請の後の補正が少なくなります。
まとめ
福岡の名義貸しの事件は、建設業許可の書類に事実と違う内容を書くと、罰則と許可の取消しの両方につながることを示しています。本記事では、次の3点をお伝えしました。第1に、虚偽の申請は6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象で、会社にも罰金が科され、不正の手段で受けた許可は取り消されて5年間は受け直せないこと。第2に、欠格要件は建設業法第8条に定められ、対象は会社・役員等・令3条の使用人で、「破産から5年」「詐欺で罰金刑」といった決まりはないこと。第3に、電子申請でも書類の中身は同じで、常勤役員等と営業所技術者は実際に常勤する人でなければならないこと。まずは、いま届け出ている役員と技術者が実際に常勤しているかを確かめることから始めましょう。
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出典:建設業法(e-Gov 法令検索)・国土交通省「建設業の許可とは」(確認日 2026-09-28)
この記事は一般的な情報をまとめたものです。法令や制度は変わることがあるため、最新の内容は公表元で確認し、個別の判断は窓口の役所や専門家(行政書士・社会保険労務士・税理士など)に相談してください。
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