空き家問題の深刻化に伴い、解体工事業の許可への新規参入を検討する企業もあります。しかし「営業実績がない状態から建設業許可を申請できるのか」「どの順序で手続きを進めるべきか」といった疑問を持つ経営者は少なくありません。実は、適切な準備と正確な知識があれば、新設会社でも解体工事業の許可取得は十分に可能です。本記事では、建設業許可申請手順から許可取得後の実務対応まで、新規参入企業が確実にクリアすべきポイントを専門的に解説します。これから建設業界に参入する皆様の事業立ち上げを、具体的にサポートします。
解体工事業の許可取得が必要な理由と市場背景
なぜ今、解体工事業許可の申請が増加しているのか
建設業許可制度において、解体工事業は平成28年(2016年)に独立した業種として認定されました。それ以来、空き家再生事業の拡大、老朽建築物の除去ニーズの高まり、および地方自治体による空き家対策事業の推進により、解体工事の需要が見込まれています。
総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、全国の空き家は約900万戸で過去最多になり、解体工事業の許可を取る会社も増えています。地方部での独立・起業の動きもあり、「営業実績ゼロの状態での許可取得」という課題に直面する新設会社もあります。
建設業許可申請前に知るべき基本事項
建設業許可とは、建設工事の請負金額が500万円以上(税込み)の場合に必須となる行政許可です。解体工事業の場合、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 常勤役員等(経営業務の管理責任者等):常勤の役員などで、建設業の経営業務の管理責任者としての経験が5年以上ある者など
- 営業所技術者等(旧 専任技術者):解体工事に関する国家資格または実務経験を持つ者
- 誠実性要件:申請者および役員が不正行為等を行っていないこと
- 財産要件:自己資本(純資産)が500万円以上、または500万円以上の資金を調達できること(許可申請時)
営業実績がない新設会社であっても、上記の人的要件と財産要件さえ満たせば、許可申請は可能です。
新設会社が準備すべき人的要件と資格要件
常勤役員等(経営業務の管理責任者等)の配置と証明方法
常勤役員等(経営業務の管理責任者等)は、常勤の役員などで、建設業の経営業務の管理責任者としての経験が5年以上ある者などです。経験は、個人事業主として、または法人の役員などとして建設業を営んだ期間で数えます。
新設会社の場合、以下の方法で経営経験を証明することができます。
- 前職での経営経験書:前社での役員就任期間を示す登記簿謄本、雇用契約書、給与支払い実績など
- 個人事業での事業実績:過去5年分の確定申告書(原本)、売上台帳、請負契約書の写し
- 他企業からの役員就任時期を証明する書類:法人登記簿謄本、役員在職証明書
重要な点として、「新設会社の場合、常勤役員等は必ずしも代表取締役である必要はありません」。ただし常勤であることが必要です。
営業所技術者等の資格と実務経験の証明
解体工事業の営業所技術者等となるためには、以下のいずれかを満たす必要があります。
- 国家資格の取得:「とび技能士」「解体工事施工技士」「施工管理技士」等の資格者
- 実務経験による認定:解体工事に関する実務経験が10年以上ある者(指定学科を卒業していれば3年または5年)
営業実績がない新設会社でも、従業員として採用する人物の実務経験を証明できれば問題ありません。実務経験を証明する際は、以下の書類を揃える必要があります。
- 過去3年以上の雇用契約書(複数年分)
- 給与支払い実績を示す源泉徴収票
- 工事実績を示す請負契約書、工事報告書、施工実績証明書
- 建設業退職金共済(建退共)加入記録
特に施工実績証明書は、前職の企業から依頼して発行してもらう必要がある重要書類です。早期に前職の企業に相談し、発行手続きを開始しましょう。
営業実績ゼロからの建設業許可申請の具体的ステップ
ステップ1:会社設立と資本金の準備
建設業許可を申請するためには、法人であることが一般的です(個人事業主での申請も可能ですが、複雑になるため法人化を推奨します)。以下の手続きを進めます。
会社設立に必要な手続き:
- 定款の作成・認証
- 登記申請(法務局)
- 印鑑登録
- 税務署への届け出
- 社会保険加入手続き(健康保険、厚生年金、雇用保険)
財産の要件は「自己資本(純資産)500万円以上」か「500万円以上の資金を調達できること」です。設立したばかりで決算がまだ無い会社は、設立時の貸借対照表の自己資本や、金融機関の500万円以上の預金残高証明書で示すのが一般的です。資本金の額そのものが要件ではない点に注意します。
ステップ2:人的要件の確認と書類準備(許可申請の3ヶ月前から開始)
常勤役員等(経営業務の管理責任者等)と営業所技術者等の配置が決定したら、必要書類の収集を開始します。これは許可申請の最も時間がかかるステップです。
常勤役員等(経営業務の管理責任者等)の必要書類例:
- 経歴書(建設業界での経営経験を年号で記載)
- 前職の登記簿謄本(当時の役員在籍期間が確認できるもの)
- 前職の確定申告書類(事業主の場合)
- 誓約書(不正行為がないことを宣誓)
営業所技術者等の必要書類例:
- 資格証明書の原本と写し(1級技能士の場合)
- または実務経験証明書(原則10年以上・指定学科の卒業なら3年または5年)
- 雇用契約書
- 源泉徴収票(複数年分)
建設業許可申請は「営業実績ゼロ」であることは問題になりません。むしろ、人的要件と財産要件の証明に注力する必要があります。
ステップ3:建設業許可申請書の作成と提出
必要書類一式が揃ったら、申請書を作成します。申請窓口は以下のいずれかです。
- 許可権者が知事の場合:各都道府県の建設業課(各県の土木部、建設部など)
- 許可権者が国土交通大臣の場合:主たる営業所を管轄する地方整備局等(北海道開発局・沖縄総合事務局を含む)
一般的には、営業所が1つの都道府県のみであれば「知事許可」となり、都道府県庁での申請が簡便です。複数の都道府県に営業所を設置する場合は「大臣許可」となります。
申請に必要な書類(一般的な例):
- 建設業許可申請書(様式第1号)
- 誓約書
- 常勤役員等(経営業務の管理責任者等)の経歴書
- 営業所技術者等の資格証明書または実務経験証明書
- 定款の写し
- 法人登記簿謄本
- 貸借対照表(会社設立後初回の場合、設立時のみ)
- 成績書等(資格者の場合)
新規の申請の手数料は、知事許可が9万円、大臣許可が登録免許税15万円です。
許可取得後に必ず実施すべき合法的な営業体制の整備

建設業許可取得後の届出義務と合法性の維持
建設業許可を受けた後は、次のような決まりを守る必要があります。
許可を受けた後に守る主な決まり:
- 建設業の許可票を、営業所と、元請として請け負った工事現場の見やすい場所に掲げる(建設業法第40条)
- 毎事業年度の終了後4か月以内に決算変更届を出す
- 役員・営業所・営業所技術者などが変わったら、決められた期限内に変更を届け出る
また、建設業法に基づく以下の義務を厳格に遵守する必要があります。
- 下請負人の保護:元請として発注するときの不当に低い請負代金の禁止(建設業法第19条の3)や、下請代金の支払いの決まりを守る
- 契約書の作成:工事の請負契約は、金額にかかわらず書面(または電子契約)で結ぶ(建設業法第19条)
- 帳簿と図書の保存:帳簿は5年間(新築住宅は10年間)、営業に関する図書は10年間保存する(建設業法第40条の3)
業務安全体制と働き方改革への対応
2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています。解体工事業も例外ではなく、新設会社であっても適切な労務管理体制の構築は必須です。
新設会社が直面しやすい課題として、「営業実績がない中での安全体制整備」があります。以下の準備を許可取得までに完了させましょう。
- 安全衛生管理規程の作成:従業員数に応じた安全衛生委員会の設置
- 産業医の選任(従業員50名以上の場合)
- 安全教育の実施体制:新規入場者教育、作業別安全教育の計画立案
- 労働時間の管理:タイムカードや給与管理の仕組みを整える(労働基準法)
これらは許可を受けた後すぐに求められるため、許可の申請の段階から準備しておくと安心です。
営業実績の創出と適正な請負契約の実行
許可取得直後は、実際の工事受注に際して、以下のポイントに注意が必要です。
- 請負金額の設定:原価を割る受注を続けると経営が苦しくなる。元請として下請に発注するときは、不当に低い請負代金の禁止(建設業法第19条の3)に注意
- 工事報告書の作成:許可申請時に証明した実務経験者が現場で施工管理することが求められる
- 赤字受注の回避:営業実績ゼロからのスタートで赤字が続くと、資金繰りや経審の点数に響く
営業実績ゼロの状態から事業を開始する際は、まず「適正利益率」を設定し、損益分岐点を明確にした上で営業活動を展開することが重要です。
よくある相談事例と対応方法
「常勤役員等(経営業務の管理責任者等)の経営経験期間に空白がある場合」の対応
建設業での経営経験が「5年連続である必要はありません」。ただし、通算で5年以上の経営経験があることを証明する必要があります。
空白期間がある場合は、経歴書にその理由(転職、出産育児休暇など)を記載し、前職の在籍証明書で期間を明確にすれば問題ありません。
「前職の企業が既に倒産・廃業している場合」の対応
前職企業から書類をもらえない場合でも、以下の方法で経営経験を証明できます。
- 法人登記簿謄本の履歴(閉鎖謄本):役員在籍期間が記載されている
- 給与支払いを証明する書類:給与振込通知書、源泉徴収票、銀行の通帳記録
- 取引先からの証明書:下請け企業、資材納入業者などからの「この期間、当該人物が経営者として契約していた」という証明
「営業所技術者等が他社との兼任を希望する場合」の注意点
営業所技術者等は、その営業所に常勤し、もっぱらその職務に従事する者です。他社との兼任は許可要件を満たさないため、原則として不可となります。
ただし、本人が他企業の役員等を辞任する書類を提出すれば、専任化できます。
よくある質問

Q1. 解体工事業の許可申請に必要な資本金はいくら必要ですか?
資本金の額そのものは要件ではありません。一般建設業の解体工事業の許可には、自己資本(純資産)500万円以上か、500万円以上の資金を調達できることが必要で、金融機関の預金残高証明書などで示します。証明書の有効期間など細かな扱いは都道府県の手引きで確認しましょう。
Q2. 営業実績ゼロの新設会社でも許可申請できますか?
新設会社でも許可申請は可能ですが、経営経験や技術者配置など一定の要件を満たす必要があります。特に営業所技術者等の配置が必要です。一般建設業なら、種別の合う2級の施工管理技士・とび技能士・実務経験でも要件を満たせます。営業実績がない場合は、代表者の経験や資格、財務状況で審査されるため、これらの書類を完備することが申請成功の鍵となります。
Q3. 解体工事業許可申請に必要な技術者資格は何ですか?
専任の技術者として配置可能な資格は、1級・2級の土木施工管理技士や建築施工管理技士、とび技能士、解体工事施工技士などが該当します(建設機械施工技士は入りません)。これらの資格を持つ従業員を配置することが許可要件です。新設会社の場合、申請前に技術者を確保し、労働契約書などで専任配置を証明する必要があります。
Q4. 許可申請から許可取得までどのくらいの期間がかかりますか?
審査の標準処理期間は、都道府県の手引きで確かめてください。ただし書類不備がある場合、補正期間が加算されます。新設会社は実績がないため、提出書類がより厳密に審査される傾向にあります。申請前に書類を完璧に整備し、不備を避けることで審査期間を短縮できます。
Q5. 解体工事業の許可申請で最もよくある書類不備は何ですか?
技術者の資格証明、経営状況の財務書類、従業員の雇用契約書の不備がよく見られます。特に新設会社は過去実績がないため、現在の経営体制を示す書類の充実が重要です。申請前に申請先の自治体の要領を確認し、必要書類を漏れなく準備することで申請成功率が大幅に向上します。
まとめ
解体工事業の許可取得は、営業実績ゼロの新設会社であっても、適切な準備と正確な法務知識があれば確実に実現できます。最も重要なのは、常勤役員等(経営業務の管理責任者等)と営業所技術者等の人的要件、および自己資本500万円以上(または500万円以上の資金を調達できること)という財産要件を満たすことです。また、許可申請から許可取得、そして営業開始までの間に、労務管理体制、安全衛生体制、契約書管理などの法的義務への対応も、並行して整えておく必要があります。
出典:建設業法(e-Gov 法令検索)・国土交通省「建設業の許可とは」(確認日 2026-09-28)
この記事は一般的な情報をまとめたものです。法令や制度は変わることがあるため、最新の内容は公表元で確認し、個別の判断は窓口の役所や専門家(行政書士・社会保険労務士・税理士など)に相談してください。
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