電気工事業において、設計業務は依然として属人化が進み、ベテラン設計者の経験やノウハウに大きく依存しているのが現状です。BIM・自動設計システムの導入により、複雑な配線図や根拠図の作成時間を大幅に削減でき、若手技術者の育成効率も向上します。本記事では、関電工と Arent が共同開発した自動設計システムなどの例に学びながら、電気工事会社が実際に自動設計システムを導入する際のメリット、課題、そして実装ステップを詳しく解説します。また、労務管理・36協定の遵守と組み合わせた働き方改革、さらには経営事項審査との関係(BIM の導入そのものは経審の加点項目ではないこと)についても触れます。設計業務の効率化を検討している工事会社の経営層・技術部門の方は、ぜひ最後までお読みください。
BIM・自動設計システムが電気工事業に求められている背景
設計業務の属人化と生産性低下の実態
電気工事業の設計部門では、配線経路の決定、ケーブルのルート設計、分電盤の配置など、複数の制約条件を満たしながら最適な設計案を導き出す必要があります。従来、これらの業務は経験豊富な設計者に任されてきました。しかし、建設業全体における人口減少と高齢化により、若手設計者の育成が急務となっています。
2026年8月25日には、関電工と Arent が共同開発した電気設備の自動設計システム「VOLDAR」が発表されました。設計の作業を自動化できれば、設計者の工数を減らし、人材をより高度な判断や施工管理の業務に回せるようになります。効果の数字は、各社の公表で確かめてください。
建設業界の働き方改革と36協定への対応
2024年4月の建設業における時間外労働の上限規制(いわゆる「2024年問題」)により、建設業界全体が労務管理・36協定の厳格化に直面しています。設計業務の効率化は、この規制への対応手段としても重要です。設計時間を短縮することで、スタッフの残業時間を削減し、36協定の範囲内で業務を完結させることが可能になります。
電気工事会社では、設計業務の自動化により「年間の総労働時間削減」を数字で示すことができ、これが時間外労働の上限を守る労務管理の整備につながります(経審の点数が直接上がるわけではありません)。
BIM・自動設計システム導入の具体的なメリット

メリット1:設計工数とコストの大幅削減
BIM・自動設計システムを導入した場合、次のような効果が期待できます(想定の例)。
- 図面の作成時間を大きく減らせる
- 設計ミスや手戻りが減る → 施工現場での調整コスト削減
- 設計案の検討パターン増加 → より最適化された設計が可能に
例えば、中規模オフィスビルの電気設計では、従来は配線経路を手作業で検討し、建築図・設備図との干渉確認に大量の時間がかかっていました。自動設計システムでは、建築情報をBIMデータベースに入力することで、ケーブル経路の自動最適化と干渉チェックを短時間で行えます。
メリット2:属人化の解消と若手人材の育成効率向上
設計ノウハウを自動化システムに組み込むことで、ベテラン設計者の知識を組織の資産化できます。若手設計者は、基本設計を自動システムで生成した後、その妥当性を判断し、案件固有の要件に合わせて調整するという「判断と改善」に集中できます。
これにより以下が実現します。
- 育成期間短縮:基本の技能を身につける期間を縮められる
- 離職率低下:単純作業による疲弊感の軽減で、設計者のモチベーション維持
- 技術継承の加速:属人化していた設計方針をシステムに組み込むことで世代交代がスムーズに
メリット3:経営事項審査(経審)での加点対象の可能性
建設業許可を保持する企業は毎年経営事項審査の受審が必要です。経営事項審査では「経営規模」「技術力」「社会性」などが評価されます。BIM・自動設計システムの導入そのものは経審の加点項目ではありません。評価されるのは技術者の数や資格、元請の完成工事高などです。特に大手ゼネコンや発注者が求める「生産性向上への取り組み」として評価されやすくなります。
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ステップ1:現状の設計プロセス分析と導入目標の明確化
まず、現在の設計業務フローを整理し、以下を分析します。
- 各工程の平均作業時間:配線設計、根拠図作成、検算・チェックなど工程別に時間を計測
- ボトルネック工程の特定:特に工数がかかっている部分(多くの場合、複雑な干渉チェック)
- 標準化可能な部分:規則的で属人性が低い作業(例:分電盤配置、ケーブルサイズの決定)
目標としては「設計工数を○年内に□%削減」「設計ミスをx件以下に抑える」など、定量的な指標を設定することが重要です。
ステップ2:システム・ツールの選定(Arent等の比較検討)
市場に存在する自動設計システムには、以下のようなものがあります。
| システム名 | 特徴 | 対象規模 |
|---|---|---|
| VOLDAR(関電工と Arent の共同開発) | 大規模ビルの電気設計に特化、BIM連携 | 中~大規模 |
| 汎用BIMソフト連携ツール | AutoCAD、Revitとの統合 | 全規模対応 |
| クラウド型設計支援ツール | クラウドベース、初期投資が小さい | 小~中規模 |
選定時は以下の観点で比較検討します。
- 対応する案件規模と設計類型:自社の主要案件に適合しているか
- 既存システムとの互換性:CAD、BIMソフトとの連携精度
- 導入・運用コスト:初期投資、ライセンス費用、保守費用
- ベンダーサポート体制:導入後のトレーニング、技術支援の充実度
ステップ3:小規模案件でのパイロット運用
いきなり全案件に導入するのではなく、規模が限定的で変数が少ない案件でテスト運用を実施します。
- パイロット期間:3~6ヶ月
- 対象案件:3~5件程度(小~中規模、既に手作業で設計完了したものが比較対象になるベスト)
- 効果測定項目:実際の工数削減率、設計精度の向上度、ユーザーの使いやすさ
この段階で、スタッフのフィードバックを収集し、本導入前に運用方法を調整します。
ステップ4:スタッフ教育と導入ガイドラインの策定
システム導入と同時に、以下の教育・整備を並行して実施します。
- 基本操作トレーニング:システムベンダー主催の研修(通常、導入時に提供)
- 自社向けの設計ガイドライン整備:「いつ自動化を使い、いつ手動で調整するか」の判断基準を文書化
- 品質チェック体制の確立:自動生成された設計案の妥当性判定プロセス
36協定との関連性を踏まえると、スタッフの追加残業なくスムーズに導入できる体制が重要です。
ステップ5:全社展開と継続的な改善
パイロット段階で得られた知見を踏まえ、段階的に全案件へ導入を進めます。
- 段階1(導入3ヶ月目~):営業部門と連携し、新規案件から積極的に活用
- 段階2(導入6~12ヶ月目):既存案件への応用、複雑な案件への適用検討
- 段階3(導入1年以降):運用データの分析、システムのカスタマイズ、さらなる自動化領域の拡大
毎年の経営事項審査提出時に、BIM・自動設計システム導入による「生産性向上の実績」を記録に残しておくと、加点評価の根拠資料となります。
導入時の注意点と建設業法への準拠
自動設計には人間の最終判断が不可欠
BIM・自動設計システムはあくまで設計者の業務支援ツール であり、最終的な設計責任は設計者(電気工事業者)にあります。建設業法では、工事内容に応じた適切な設計・施工管理が求められており、自動生成された設計案をそのまま納品することは法的リスクを伴います。
そのため、以下のプロセスが必須です。
- 設計案の確認・検証:自動生成後、設計者が妥当性を確認
- 施工可能性の判断:現場環境や施工制約への対応を検討
- 発注者への説明:自動システムを使用した旨を適切に報告
労務管理と36協定の遵守
自動設計システムの導入で設計工数が削減されても、削減分を新たな業務に充当する際には、36協定の範囲を超えないよう注意が必要です。
例えば、以下の配置が考えられます。
- 設計精度向上のための検証業務を強化 → 品質向上につながり、現場トラブルを減少
- 若手設計者の教育・指導に時間を充当 → 人材育成のレベルアップ
- 新規案件の営業活動・技術提案に充当 → 事業拡大への投資
こうした使途を事前に定義し、これが36協定届に反映されるよう労務管理体制を整備することで、コンプライアンスを守りながら組織全体の生産性向上を実現できます。
その他の効率化手法との組み合わせ
ロープアクセス工法と設計・施工の連携
複雑なビル外装への電気配線設計が必要な場合、ロープアクセス工法 を活用することで、従来の仮設足場が不要になります。これにより以下の相乗効果が期待できます。
- 施工現場での急な変更対応が容易に → 自動設計システムで速やかに設計修正・根拠図を再生成
- 原価削減:足場コストの削減分を高度な設計技術に投資可能
- 工期短縮:着工から竣工までのスケジュールが圧縮
設計段階で「このエリアはロープアクセス工法を採用する」という情報をBIMに組み込むことで、設計の制約条件が明確化し、自動設計システムがより適切な配線経路を提案できるようになります。
新素材・新工法による安全性向上との統合
電気工事現場の安全性向上も同時に重要です。例えば、新型の耐火ケーブルや難燃性配管材などの採用は、設計段階で自動チェックシステムに組み込むことができます。
- 防火基準への自動適合確認 → 設計段階での法令違反を未然防止
- 施工現場での安全基準の標準化 → すべてのスタッフが同じ基準で作業を実施
経営事項審査の W点(社会性等)では法令遵守の状況なども評価の対象です(経審は許可の更新とは別の手続きです)。
よくある質問

Q1. BIM導入にはどの程度の初期投資が必要ですか?
初期投資は企業規模により異なりますが、ソフトウェアライセンス、ハードウェア、研修費用で数百万円程度が目安です。ただし、設計時間の短縮や変更対応の効率化により、1~2年で投資回収が可能なケースが多いです。段階的な導入も検討しましょう。
Q2. 既存の設計業務フローにBIMを組み込むには?
まず小規模プロジェクトでパイロット導入し、スタッフの習熟度を高めます。その後、既存フロー図を整理し、BIM導入のメリットが大きい工程から段階的に移行することが成功のポイントです。導入支援業者との連携も効果的です。
Q3. 電気工事設計でBIMはどのような自動化ができますか?
配線経路の自動最適化、機器配置の干渉チェック、電力負荷計算の自動実施が可能です。また、平面図から立面図への自動生成や、変更時の関連図面の一括更新により、手作業による誤りを削減できます。
Q4. スタッフのBIMスキル習得に要する時間は?
基本操作習得に3~6ヶ月、実務適用レベルまでに6~12ヶ月が標準です。外部研修や認定資格取得の活用が効果的です。継続的なOJTと、社内ナレッジベースの構築により、習得期間の短縮が実現できます。
Q5. BIMシステム導入で現場との連携はどう変わりますか?
3Dモデルの共有により、現場でのトラブル予見が可能になります。施工前に干渉や配置問題を解決でき、工事期間の短縮と原価削減につながります。クラウド環境なら、設計者と現場間の情報共有がリアルタイムで実現します。
まとめ
BIM・自動設計システムの導入は、電気工事業における生産性向上の切り札 です。関電工と Arent の自動設計システムなどの例に学びながら、現状分析→システム選定→パイロット運用→全社展開という段階的な導入ステップを踏むことで、リスクを最小限に抑えながら確実な効果を実現できます。設計工数の削減は、時間外労働の上限(36協定)を守る助けにもなります。さらに、ロープアクセス工法や新素材・新工法との組み合わせにより、施工現場全体の効率化と安全性向上を同時に推進できます。自社の案件規模や設計内容に合わせて、2026年のうちに、まず取り組む範囲を決めておくことをおすすめします。
出典:建設業法(e-Gov 法令検索)・国土交通省「建設業の許可とは」(確認日 2026-10-02)
この記事は一般的な情報をまとめたものです。法令や制度は変わることがあるため、最新の内容は公表元で確認し、個別の判断は窓口の役所や専門家(行政書士・社会保険労務士・税理士など)に相談してください。
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