令和8年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,177円、前年度から56円の引上げになりました。10月1日から12月2日にかけて、都道府県ごとに順次発効します。職人や現場補助の時給を上げなければならない一方で、人件費の増加分をどう吸収するかに頭を悩ませている経営者は多いはずです。
その負担を設備投資で取り返すための制度が、厚生労働省の「業務改善助成金」です。ただし、この助成金には申請期限が都道府県ごとに違うという特徴があります。最も早い地域では、期限は9月30日です。この記事では、建設会社が期限を落とさずに申請を進めるための手順を、時間の流れに沿って整理します。
令和8年度の業務改善助成金の申請期限は「最低賃金の発効日の前日」
令和8年度の申請受付は、2026年9月1日に始まりました。申請期限は、次の2つのうち早いほうの日です。
- 申請する事業場がある都道府県の、地域別最低賃金の発効日の前日
- 2026年11月30日
つまり、最低賃金が10月1日に発効する地域では、9月30日が申請期限になります。答申段階の予定では、北海道・宮城・栃木・埼玉・千葉・東京・神奈川・新潟・富山・岐阜・愛知・三重・大阪・兵庫・香川の15都道府県が10月1日発効です。
発効日は、異議の申出などによって変わる可能性があります。自社の事業場がある都道府県の発効日は、必ず都道府県労働局の発表で確認してください。なお、12月1日以降に発効する岩手・熊本・沖縄は、11月30日のほうが早いため、期限は11月30日です。
予算の範囲内で行う事業のため、期限より前に受付が締め切られる場合があることも覚えておく必要があります。
対象になる建設会社と、2026年度に変わったポイント
対象は中小企業・小規模事業者です。資本金3億円以下、または常時使用する労働者が300人以下のどちらかを満たすことが目安です(建設業が該当する区分。自社の区分は労働局で確認してください)。
令和8年度の主な変更点は次のとおりです。
- 助成率の境目が1,050円に変わった:引上げ前の事業場内最低賃金が1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4
- 賃上げのコースが50円・70円・90円の3つになった
- 賃上げした後で申請することはできなくなった:申請してから賃上げする順番が必須
- 引き上げる対象の労働者は雇用保険の被保険者に限られた
- 普通自動車の特例がなくなった:車両で対象になるのは、8ナンバーの特種用途自動車などに限られます
助成額は「設備投資などにかかった費用×助成率」と「上限額」の、どちらか安いほうです。上限額は、選んだコースと賃金を引き上げる人数で決まります。最大は600万円ですが、これは一定の要件を満たす特例事業者が、90円コースで10人以上の賃金を引き上げた場合の額です。自社の人数での上限額は、厚生労働省のリーフレットの表で確認してください。
申請から入金までの手順(令和8年度版タイムライン)
この助成金で最も間違えやすいのは、賃上げと設備投資で「やってよい時期」が違う点です。
- 申請の準備:引き上げる対象者(雇入れから6か月を過ぎた、雇用保険の被保険者)を決め、導入する設備の見積りを取ります。10万円以上の契約は、2者以上の見積りが必要です
- 交付申請:管轄の都道府県労働局に、交付申請書と事業実施計画書を提出します。電子申請(jGrants)も使えます
- 賃金の引上げ:申請した後から、最低賃金の発効日の前日までに行います。交付決定の前でも構いません。ただし、発効日の当日に上げても対象外です。就業規則などを改正し、分割せずに一度で引き上げます
- 交付決定:労働局の審査を経て、交付決定の通知が届きます
- 設備の発注・契約・納品:必ず交付決定の後に行います。交付決定の前に発注や契約をした費用は、理由を問わず対象外です
- 事業実績報告と支給申請:納品日・支払完了日・賃上げ日のうち最も遅い日が「事業完了日」です。期限は交付決定年度の1月31日(令和8年度は2027年1月31日)です
- 助成額の確定と入金
交付決定までに何日かかるかは、公表されていません。申請してから設備を発注できるまでに時間がかかる前提で、業者との納期の調整を早めに始めておくと安全です。
建設会社で使える設備の例と、対象外になりやすいもの
厚生労働省が公表している過去の助成事例には、建設業の例として次のようなものがあります。
- 型枠の自動洗浄機(手作業の時間を大幅に削減した事例)
- 倉庫内のホイストクレーン(資材の積み下ろしの省力化)
- 土木積算・施工管理システム、建築積算・見積システム
- 出面(でづら)管理や勤怠管理のソフト・アプリ
- 塗装機械
いずれも過去の年度の事例のため、令和8年度のルールで同じ設備が認められるかは、申請前に労働局へ確認してください。一方、次のようなものは原則として対象外です。
- 建屋・構築物・コンテナなどの建築物
- エアコンなど、快適さのための設備
- パソコン・スマートフォン・タブレット(特例事業者のうち、物価高騰等の要件を満たす場合の新規購入を除く)
- 普通自動車、自動車のリース・ローン・保守
- 広告宣伝費、太陽光などの再生可能エネルギー設備、法令で義務付けられた整備
よくある失敗と対策
建設会社がつまずきやすいのは、次の4つです。
| よくある失敗 | 何が起きるか | 対策 |
|---|---|---|
| 先に賃上げしてから申請した | 令和8年度は賃上げ後の申請が認められない | 申請書を出してから就業規則を改正する |
| 発効日の当日に賃上げした | 対象外になる | 発効日の前日までに適用する |
| 交付決定の前に設備を発注した | その費用は理由を問わず対象外 | 見積りまでにとどめ、発注は通知の後にする |
| 自社の申請期限を11月30日だと思い込んだ | 10月1日発効の地域は9月30日で締め切られる | 事業場がある都道府県の発効日を労働局で確認する |
まとめ
- 令和8年度の申請期限は「最低賃金の発効日の前日」と「11月30日」の早いほう。10月1日発効の15都道府県は9月30日まで
- 賃上げは「申請の後、発効日の前日まで」、設備の発注は「交付決定の後」。順番を間違えると対象外になる
- 助成率の境目は1,050円。上限額はコースと人数で決まり、最大600万円は特例事業者の90円コース・10人以上の場合
次のアクション
- 自社の事業場がある都道府県の、最低賃金の発効日を労働局の発表で確認する
- 雇入れから6か月を過ぎた雇用保険の被保険者のうち、時給が最も低い人を洗い出し、導入したい設備の見積りを2者以上から取る
制度の詳細や様式は、厚生労働省「業務改善助成金」のページと、業務改善助成金コールセンター(0120-366-440、平日9時〜17時)で確認できます。最低賃金の答申状況は厚生労働省の発表で確認できます。
➡ 建設会社が活用できる助成金・補助金一覧|申請時期と必要書類
➡ 建設業2024年問題、施行2年後の現実|時間外労働の実態
よくある質問
Q: 最低賃金の引上げに合わせて、もう賃上げを済ませてしまいました。今から申請できますか?
令和8年度は、賃上げをした後に申請することは認められていません。申請書を提出してから、発効日の前日までに賃上げを行う必要があります。すでに賃上げを済ませた場合は、対象になるかどうかを事業場を管轄する労働局に確認してください。
Q: 現場で使う車両は対象になりますか?
令和8年度は普通自動車の特例がなくなりました。対象になるのは、8ナンバーの特種用途自動車などに限られ、使用の本拠が申請する事業場の住所であることが条件です。自動車のリース・ローン・保守費用は対象外です。
この記事は一般的な情報をまとめたものです。法令や制度は変わることがあるため、最新の内容は公表元で確認し、個別の判断は窓口の役所や専門家(行政書士・社会保険労務士・税理士など)に相談してください。
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